柴田聡子『Your Favorite Things』収録曲、ベスト5

柴田聡子のニューアルバム『Your Favorite Things』が2月28日の0時ぴったりにサブスクで配信開始になった瞬間、飛びつくようにSpotifyを立ち上げて再生した。基本的にどのミュージシャンのどのアルバムも少なくとも10回以上は聴かないとなんだかよくわからなかったりする鈍感な私だが、今回は珍しく一聴して「いやーこれは素晴らしいアルバムだ。というか、なんなら柴田聡子の最高傑作じゃないか」と思った。

それから3日後の3月2日、『Your Favorite Things』のリリースツアー初日のライブを観るために恵比寿リキッドルームに行った。

 

印象的な場面がいくつかあった。まず、ニューアルバムからの曲のほとんどはいつものようにギターを持たず演奏はすべてバンドに任せてハンドマイク片手に歌っている。MCもいつものようにどこかぎこちないような感じはなく、じつに堂々としていて超気合い入ってる感まんまんだ。そして、すべての力を使い果たしたかのようにアンコールを行うことなく、風のように颯爽と去っていった。

なんだこれは。なんだか新鮮だ。こんな柴田聡子ははじめて見た。そしてカッチョいい。終演後、「いやー素晴らしいライブだった。というか、これまで観た柴田聡子のライブでダントツのデキだったんじゃないか」と思った。

とにかく、ニューアルバムを一聴して、そしてリキッドルームでのライブを観て思ったのは、「なんかこれまでとは違うフェーズに到達した感がある」ということだった。「一皮剥けた」というか「垢抜けた」というか「化けた」というか、とにかくいままでの柴田聡子とは違う。

アルバムのオープニングナンバーでありライブでも1発目に披露された「Movie Light」のイントロを耳にした時点でまず唸る。荘厳で優雅なストリングスと凛としたピアノの音色が重なり、ひたすら美しい音像が広がる。これまでの柴田聡子の作品とはあきらかに毛色が異なる楽曲だ。というか、全体を通しても手癖感が一切感じられない。こりゃ完全におニューな柴田聡子じゃないか。

いまにして思えば前兆はあった。

去年の夏に家主というバンドとのツーマンライブを観に行った。そしたら、バンドのメンバーがいつもの「柴田聡子inFIRE」ではなかった。

もちろん、FOHはDUB MASTER Xだった。さらにギターの岡田拓郎の姿も確認できた。

ただ、ベーシストはかわいしのぶではなかった。ドラマーもイトケンではなかった。柴田聡子の盟友でありコーラスとパーカッション担当のラミ子もいなかった。

このアルバムの製作にもこの3者は関わっておらず、代わりに参加しているのは、まきやまはる菜というベーシストと、浜公氣というドラマーである。そして今回のツアーも柴田聡子、DUB MASTER X、岡田拓郎、まきやまはる菜、浜公氣、さらにキーボード谷口雄というラインナップになっていた。

つまり、これは建設的なメンバーチェンジだったのだろう。また違う段階に行くための必要なステップしてこの決断に至ったのだろう。

マンネリや行き詰まりを感じさせる前に違う所に行ってしまう。現状に満足せず、これまでとはまた違うタイプの「いい曲」をつくる。そんなような執念のような思いが感じられる力作感みなぎるアルバムになっている。

なにしろ素晴らしい。紛れもなく最高傑作だわこれは。

というキモい妄想込みの感想文はいいかげんこれぐらいにして、例によって私個人の独断と偏見で選ぶ「柴田聡子『Your Favorite Things』収録曲、ベスト5」を発表したい。収録曲は以下である。

Your Favorite Things

Your Favorite Things

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  1. Movie Light
  2. Synergy
  3. 目の下
  4. うつむき
  5. 白い椅子
  6. Kizaki Lake
  7. Side Step
  8. Reebok
  9. 素直
  10. Your Favorite Things

以上10曲。このなかからベスト5にランクインするのは果たしてどの曲なのか。

それでは早速行ってみよう。

 

5位「Synergy」

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まず5位は弾けるようなポップセンスが爆発しているこちらの曲。ファンキーなバンドアンサンブルと色鮮やかな電子サウンドの融合っぷりがじつに心地よい。柴田聡子の十八番である多彩なコーラスワークも光に光りまくっていてウキウキ気分になれること請け合いのナンバーだ。

 

4位「Your Favorite Things」

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続いて4位はアルバムのタイトルトラックであるこの曲。ここまでもの悲しさを感じさせるバラードははじめてではないか。様々な仕掛けが施されたエレクトロニクスサウンドがおもしろいし、アウトロのストリングスがまたとんでもなく素晴らしい。儚くて、美しくて、たまらないほどのせつなさを感じさせる名バラードである。

 

3位「Reebok」

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3位はこちらも柴田聡子にとってはじめてのタイプの曲と言っていいだろう、シティポップ調のオシャレな雰囲気がまんまんなこの曲にしたい。個人的にはこのアルバムのなかでもとびきりに素晴らしいメロディラインが展開されていると思う。何度でも聴き返したくなるような中毒性が強烈な一品だ。それにしても、地味めのフォークソングをやってた活動初期のころがもはや別人のように思えてしまう。

 

2位「Side Step」

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2位のこの曲はなんとディスコだ! ダフト・パンクの「One More Time」を換骨奪胎したような感じがあって、なにしろアゲアゲな多幸感がハンパない。実際、リキッドルームではこの曲をやったときが一番盛り上がった記憶がある。地味めのフォークソングをやってた活動初期のころがもはや別人のように思えてしまう(2回目)。

 

1位「Movie Light」

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そして栄えあるナンバーワンを勝ち取ったのはアルバムのオープニングを飾るこの曲、「Movie Light」だ。なんといっても曲名がこんな感じだし、この曲はエンニオ・モリコーネを意識したんじゃないだろうか。イントロのストリングスとピアノの音色が聴こえてきた瞬間から一気に持ってかれる。ひたすらに美しい。間奏で展開されるスライドギターもまた良い。メロディアスで情感たっぷりな雰囲気をより一層盛り上げてくれる。なにしろ沁みる。これこそ泣く子も黙る大名曲だ。

 

以上。疲れた。おしまい。