「クソッ。悩殺だ」
おっさんが言うのである。
鏡やクルマに反射して映る己の姿をうっとりと眺めながら決めゼリフのごとく何度も言う。鹿革製のジャケットなりブーツなりを身にまとって言うのだ。
「チクショウ! 悩殺だな」
やばい。
このおっさん、超おもしろいよ。
とにかく本作『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』はヘンな映画である。
なにしろ主人公のこのおっさん、鹿革の製品を愛してやまない人物なのである。
まずは手始めに鹿革で出来たジャケットをゲットする。その後も帽子、ブーツ、ズボン、手袋といった具合に鹿革アイテムを次々とゲット。
とくにジャケットには並々ならぬ愛着を抱いているらしく、鹿革製に限らずとにかくジャケットを着ている人間が許せない。
やがておっさんは
「ジャケットを着てる唯一の男になりたい!」
そんな謎の衝動に突き動かされビデオカメラ片手に道行く人々に嘘の映画撮影をもちかけたうえ
「生きてる限りジャケットを着ない」
というセリフを言わせる。
そんでハイ撮影終了、かと思ったら、あろうことかジャケットを強奪しそのままクルマで逃走する。そして持ち帰った大量のジャケットは土中に埋葬。さらにおっさんの奇行はエスカレートし、しまいにはジャケットを着ているあらゆる人間をぶっ殺しまくっていく。
なんじゃそら、と思うだろうが、マジでそういうお話なんだからこう説明するしかない。
とにかく頭がエレクトリカルパレードなおっさんがとる言動のひとつひとつがいちいちおもしろすぎる。出鱈目な感じとリアルな感じが混ぜこぜなシュールでブラックな世界観が妙な味わいがある。なんとも独特というか意味不明っちゃ意味不明なお話なので合わない人はまったく合わないだろうが、個人的にはツボすぎる大好物な映画だ。とんちが効いてるオチも笑えたし、秀逸な長編コントを観たような気分になった。
つーか、個人的には『ごっつええ感じ』のコントを思い出したな。キャシィ塚本やインストラクターシリーズとかあの辺のやつがお好きな方ならきっと本作も楽しめると思う。
フランスの映画で監督はカンタン・デュピューというお名前のかたである。他にも何作か撮っているみたいで、いずれもやはり相当変わったお話らしいが、アマプラでは残念ながら今現在視聴不可だ。
ああ、猛烈に観たい。そして悩殺されたい。