映画『マディソン郡の橋』‐エロいおかあさんなんて…嫌だ!‐


イーストウッドの監督・主演作はほとんど観ているが、この『マディソン郡の橋』に関しては、長いあいだ、未見であった。

というのは、本作の「初老に差し掛かった男女が繰り広げる不倫からなる純愛」的なテーマに対し、「KABA.ちゃん、性転換手術へ」などという話題とおんなじくらいに興味が湧かなかったからだ。

では、そんな私がなぜいまさらながら『マディソン郡~』をわざわざ鑑賞したのか。

自分も初老と呼ばれる年齢に差し掛かってきて本物の愛を知りたくなったから…?

じつは自分も今現在バッチリ不倫をしている最中であり、この映画のテーマが興味深く思えたから…?

ノン!

単にテレビでやっていたのでなんとなく録画して観た。

『マディソン群~」でイーストウッドの不倫相手役を演じているのはメリル・ストリープ。

本作は実質的にこの両者による演技のタイマン勝負が展開される内容と言っていいだろう。

まず、スターとしてのオーラを押し殺し、ひたすら抑えた演技に徹しているイーストウッドが良い。かたやメリル・ストリープの、前半のくたびれた主婦という人物像から一転し、イーストウッドとの出会いを経てからの熟女の色気をプンプンに振り撒いていく様もまた圧巻である。オッサンとオバハンが不倫する映画なんてどうでもいいと思っていたし、KABA.ちゃんが性転換手術するのもどうでもいいし、なんなら鑑賞中に寝る気満々だったが、なんだかんだで最後まで退屈せずに観られたのは、イーストウッドとメリル、両者の円熟味あふれる素晴らしい演技による部分がなによりも大きい。

で、この映画、前述したとおりテレビ放送の吹替版で観たのだが、イーストウッドとメリルの吹き替えを担当されている役者さんもとても良かった。なによりふたりの声によく合っていた。洋画の場合、基本的に字幕で観ているが、たまには吹き替えで観てみるのもいいかもしれない、と思った。とはいえ、プロメテウス@剛力は永遠に観なくていい、とも思う。

本編が終了し、声優のクレジットが画面に出てきたので確認してみたら、イーストウッドの声を担当されているのは伊藤孝雄さんという方だった。イーストウッドの吹き替えといえばやはり山田康雄のイメージがなんといっても強いが、年老いたイーストウッドと伊藤さんの落ち着いた声色との相性もばっちりである。

しかし、正直戸惑ってしまったのが、メリル・ストリープの声の吹き替えを女優の丘みつ子さんがやっていたことである。

なにしろ丘みつ子さんといえば個人的に物心ついた頃からずっと「おかあさん的な人」だったわけで。実の母を除けば、「おかあさん」と言われてイメージするのは、八千草薫でも山岡久乃でも、ましてや尾木ママやビッグダディの元妻などでもなく、丘みつ子さんなわけで。

そんなじつの母以上に、ある意味、「おかあさん」なイメージが強い丘みつ子さんが、声のみの演技とはいえ、イーストウッドに「女」として触れられ、悶え悦んでいるという画に、本作鑑賞後、なんとも複雑な感情が湧き上がってきてしまったのだった。

エロいおかあさんなんて…嫌だ!

物語冒頭、母メリルが残した遺書を発見し、イーストウッドとのエロエロな不倫関係をはじめて知った子供らがひたすら困惑の表情を浮かべるのも、つまりはそういうことであろう。

なるたけ母は「エロ」とはかけ離れた存在でいてほしい。それが万国共通の子供らの願いだからである。

ということをこの映画で学んだ。

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