日本が世界に誇る伝説的刑事ドラマ『西部警察』ーー。
白昼堂々繰り広げられる銃撃戦は常識中の常識であり、手ごわい相手となればマイトだって平然と使い爆破・撃退、ときには戦車だって出動の無法状態。
そんなわけだから当然、取り調べでダンマリ決め込む犯人をボコボコにしたって一切お咎めなし。
とどめに出前のカツ丼と田舎に住む年老いた母の身の上話で犯人を泣き落とし、ラストは港をバックに悠然と煙草をくゆらせ万事解決。
……そんな現実では100パーセントありえない夢物語を、角刈り&レイバンのサングラスというヤクザまがいのブルータルな出で立ちのオヤジを中心に据えた破天荒きわまりない連中の活躍によって問答無用とばかりに視聴者を強引にねじ伏せた、言わずもがなの刑事ドラマの金字塔である。
我らのセクシーハゲことジェイソン・ステイサム主演のハリウッド映画『トランスポーター』は、そんな「西部警察マナー」を、海を越え正しく継承した男気溢れる作品である。
ジェイソン演ずるは、元特殊部隊所属にして現在は裏稼業に加担するプロの運び屋。
カネのためなら銀行強盗や人身売買の手助けだって平気でやってのける、いわば冷酷非情の極悪人である。
正義の警察と悪の運び屋。
生業こそ真逆であるが、やっていることはおんなじだ。
冒頭、街中で激しいカー・チェイスを繰り広げているにもかかわらず通行人の誰一人死傷者が出ないのは当然中の当然であり、あまつさえ天下の公道で銃撃戦を展開しようが車が爆発炎上しようが全然無問題。
女・子供が虐げられているとなればあっさりと「いいやつ」にシフトチェンジし、悪党相手とはいえ人を何人も殺しておきながらなぜか無罪放免どころか警察に感謝までされ、ラストは夕日をバックに破顔一笑のジェイソン。
これぞまさしく西部警察マナーに則った内容と言えよう。
つまりは「細けぇことは気にするな」ということである。
「これはありえない」
「ムチャクチャだ」
そんな無粋な感想を吐く輩も多かろう。
そんな輩は『西部警察』のDVDが出ているから買うなり万引きするなりして鑑賞・勉強していただきたい。
ちなみに俺はゆうに100万回は鑑賞しており、本作『トランスポーター』には『2』『3』と続編があるらしいが、それが身の丈50メートルに巨大化したジェイソン・ステイサムが火星人と死闘を繰り広げる内容だったとしても驚かない自信がある。俺も『西部警察』で大いに鍛えられたものだ。
思えば、ショットガン片手に角刈り&レイバンのサングラス姿で街中をうろつくオヤジたちが活躍する刑事ドラマを見かけなくなって久しい昨今。
そんな「ムチャクチャ」「破天荒」とは無縁の軟弱な思考回路の大人たちが教育の現場を預かっているのだから、自らの手が子供たちの未来への可能性を蝕んでいることに100億年かかっても気づくはずはないだろう。
PTAは、ただちに『西部警察』を社会科の授業の題材として取り入れるべきである。
街中がショットガン&角刈り&レイバンのサングラス姿の子供たちで溢れかえったとき……世界に無限の可能性が広がる。