映画『ブルークリスマス』-角刈りとSFの食い合わせの悪さを知る-

『ブルークリスマス』という映画を観た。なんでも『スター・ウォーズ』によるSFXブームの渦中に特撮映画の本家である東宝が「特撮を一切使わないSF映画」を目指して作られた意欲作であるという。

 

あらすじはこうだ。

時は1978年、世界各地でUFOがやたらと現れるようになり、UFOと遭遇した人間は血の色が青色に変質するという異常事態が起きる。テレビ局の報道部員であるおっさんがその事実を突き止め一大スクープとして公表しようとするが、なぜか政府から圧力がかかりしまいには左遷されてしまう。一方、そのころ角刈りは……というお話である。

まあとにかくものすごく地味な作品だった。UFOの話自体は出てくるもののUFOが上空を縦横無尽に飛び回るみたいなシーンは一切ないし、グレイ型の宇宙人が登場してきてレーザー銃で地球人と大立ち回りなんてことにも当然ながらならない。一応アメリカロケを敢行しているしキャストも豪華だしで金かけてる感はあるにはあるが、基本的には前述の報道部員のおっさんがほとんど日本国内やニューヨークとかを街ブラしているだけで、あとは中盤を過ぎたあたりから角刈りが頻繁に出てくるだけである。

本作の根底にあるテーマは人種差別であろう。そういう意味では現代にも通じる普遍的な問題にメスを入れたシリアスな社会派作品と言えるだろうし、そのこころざし自体を否定する気はない。もちろん視覚効果に一切頼らないSF映画だってあってもいいし、実際派手さがカケラもなくてもおもしろいSF映画なんてわんさかあるだろう。ただ、いかんせんお話の展開が平坦過ぎて、全体的に鈍臭い感じが否めず、唯一強烈に印象に残ったのは角刈りだった、というのが正直なところではある。

などとしつこいくらい書いたので、いいかげんお気づきのかたもいらっしゃるだろう。

そうだ。

「角刈り」である。

本作の主人公を演じているのは勝野洋である。勝野洋といえば『太陽にほえろ!』の「テキサス」である。そして『太陽にほえろ!』の「テキサス」と同様、本作に於いても勝野はバッチリ角刈りでキメているのである。

 

主人公の角刈り、もとい勝野は国防庁の特殊隊員であり、お国の指示で青い血をした人間を探し回る傍ら、床屋で働いているねーちゃんに恋してて、週3という異常過ぎるペースで床屋に通い詰めている。ようするに「恋に恋するあまり角刈りをキープするのに余念がない変人のおっさん」にしか見えない。

なにしろ角刈りのインパクトは絶大である。イケメンが角刈りのデブにキャラ変したことがきっかけでブレイクを果たしたジェラードンがそれをなによりも証明している。

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繰り返しになるが、本作『ブルークリスマス』はものすごく地味なお話であり、なおかつ、きわめてシリアスなテーマを掲げたSF映画だ。

一方で角刈りのインパクトは絶大である。

つまり、角刈りの存在だけが浮いていて、UFOだとか人間の血が青いだとか、そんなものは角刈りのおっさんを前にしたら些細な問題じゃないかと思えてしまう。

映画は悲劇的な結末を迎える。とはいえ、なにしろ画面に映っているのが角刈りのおっさんなだけに悲しい気持ちにはまったくなれなかったのだった。

誰のせいでもない。角刈りが悪い。

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