数年前、当時通っていた美容院に髪を切りに行ったとき、担当していただいた店員さんからいろいろと面白い話をうかがった。
店員さんがおっしゃるには、なんでも渋谷などのような場所に建っている店舗は、なんと朝方まで営業しているという。しかも個室まであるらしく、髪を切ってもらっている間、DVDで映画を鑑賞することも出来るのだそうだ。そんなことはすでにほとんどの方々がご存知でらっしゃるのかもわからないが、私は知らなかった。びっくりだ。
「さぞかし都会的でオシャレでイケメンなお客さんばかりやってくるのでしょうね」
と、やや自嘲気味に返したら、そういうわけでもないらしく、じつのところ主要客となっているのはほとんどが地方の方々だという。つまり、地方から旅行などで東京にやって来た人が上京した記念に髪を切りにやってくるのだそうだ。なるほど。そうだったのか。
ではと、私自身、常々疑問に感じていたことをぶつけたみた。
「美容院の男の店員さんで頭が薄くなってしまっている人って見たことないんですけど、そういう人ってやっぱりお店的によろしくないんでしょうか?」
「ええ、よろしくないですね」
よろしくないのだそうだ。
「美容師失格ですね」
とはさすがにおっしゃらなかったが、やはりイメージ的によろしくないという。たしかに頭をはげちらかした店員に髪を切られるとなると申し訳ないとは思いつつ、なにか不安を感じてしまう。
とはいえ、基本的には店員さん自身のヘアスタイルや店での服装などは自由であり、各自のセンスに任されているとのこと。
なるほど。だったら、モヒカン頭はどうなのだろうか。もちろん一昔前に流行った「ソフト・モヒカン」のような甘っちょろいものではなく、そのものズバリの気合が入ったやつである。あるいは、若手時代のブル中野ふうの「頭の左半分はハゲで、右半分のほうは長髪でしかも髪の色がエメラルドブルー」みたいなヘアスタイルはどうなのか。
「さすがにそれはダメですね」
ダメなのだそうだ。「やりすぎ」らしい。残念だ。ただし、「一般的に流行ればオーケーになるかもしれない」とのこと。うむ。なるほど。
しかし、さすがに服装のほうはもっとオープンなのだろう。事実、この店にも、帽子を被っている店員がいれば、いくつものアクセサリーをじゃらじゃら身につけている店員も目にする。だったら、「ライダースジャケット&ブーツカットジーンズにレイバンのサングラス」といった松田優作扮するジーパン刑事ふうの格好をしている美容師がいたってかまわないだろうし、パンツ一丁でテンガロンハットを被ったうえアコースティックギターを小脇に抱えた美容師だっていてもよいのでは、と思うのだが。
「いや、ダメですね」
ダメなのだそうだ。
どうやらこれも「やりすぎ」らしく、そんな格好で業務に入ろうとしても家に帰って着替えてくるように言われてしまうという。美容師さんもいろいろと大変なんだなあ。
ただし、これも「一般的に流行ればオーケーになるかもしれない」とのこと。
なるほど。そうか。そういう仕組みになっているのだな。
誰か流行らせてくれないだろうか。