怪談・恐怖のエロDVDショップ【閲覧注意】

稲川淳二 解明 恐怖の現場 終わらない最恐伝説 vol.1

 

はじめに

まだまだ夏には早いが、本日は友人(仮に「A」としておく)がかつて体験した「世にも恐ろしい怪談」について話をしたいと思う。

とくに男子にとっては金玉が縮む思いをする恐怖体験である。心して読んでいただきたい。 

Aのライフワークだった「ある恒例の儀式」

もう10年以上前の話になろうか。当時水回り関係の職を生業としていたAは、業務の性質上、出向先がほぼ毎日異なるうえ、しかもそれがなかなかの広範囲に渡るという多忙な日々を過ごしていた。

そんなAが常日頃からひそかに楽しみにしていたのが、仕事を終えた車での帰宅途中に行う「ある恒例の儀式」だった。

それは、

「馴染みのない土地に点在している中古専門のエロDVDショップを巡ること」

人一倍カネにせこいAにとって新品のエロDVDは購入の対象ではなく、中古の、出来るだけ安くて、しかも内容的に「とびきりエロい」それ(A曰く「お宝」)をゲットすることが当時の彼のライフワークとなっていたのだった。

むろん新品に比べて安い、というのもあるが、中古作品のもうひとつのメリットは、「店ごとに品揃えがまるっきり異なる」というところである。

「購入するかどうかはパッケージと値段を充分に確認して、最後は直感で決める。俺にとって偶然入った店で“お宝”に出くわすってのは、一期一会の出会いようなものだね」

とは、やはりAの言葉であるが、ともあれ、仕事にかこつけて未開の中古エロDVDショップ巡りをすることが出来る。会えば決まって「あー大変だ」「あー忙しい」などと仕事の愚痴をこぼしていたこの時期のAではあったものの、一方ではある意味「非常においしい環境」に身を置いていたと言えるのかもしれない。

で、そんなこんなのある日のこと。無事仕事を終え恒例の儀式に着手するA。ほどなく、一軒の「よさげな店」を発見。そこでめぼしい中古エロDVDを見事ゲットしホクホク顔のAは、さらなるお宝を求めエロDVD屋探索を続けたのだった。

いざ「恐怖の館」へ

「その店」を発見したのは大通りに面した場所だったという。

まず、外観からして「風変わり」だと感じざるを得なかったのは、

「開店時間~昼過ぎ。閉店時間~大体00時くらい」

なんていうアバウトすぎる営業時間を示す用紙が入口ドアに貼られていたからだ。

思えば、ここでやめておくべきだったのだろう。

ともあれ、

「ま、店主がいいかげんな奴なんだろう」

ぐらいにしか思わなかったA。なにより、エロの凄まじい力に抗えるはずがなかった。

そして、店に入店。

「いらっしゃい!」

この手の店としてはまるで似つかわしくない威勢の良い声かけを食らってまず戸惑いを覚えたAだったが、それよりも目に付いたのは、店内の壁一面にでかでかと貼りつけられた用紙内の文面だった。

「ひやかしお断り!」

「店に入ったら必ず一品買うこと!」

ほとんど脅迫である。

しかもこの店主というのがまた、柔和な笑顔を浮かべつつもどこか目の奥が笑っていないような鋭い視線をぶつけてくる、いかにもコワモテな感じのあんちゃんで(推定年齢30~35歳)、恐ろしいことこのうえない。

「あっ。……これは、やばい」

気づいたときには遅かった。

遅かりしエロ之助

目の前には脅迫まがいの張り紙、いまにも殴りかかってきそうなコワモテの店主。しかも店内は店主と友人のふたりっきりという最悪な状況である。このきわめて緊迫した場面で逃げ出そうものなら、それこそコワモテ店員に本当に殴りかかられてもおかしくはない。そう感じさせる異様な雰囲気があったし、じつのところ、いきなり虚を衝かれて逃げるタイミングを失ってしまってもいた。

「ま、まあ、他の客が入ってきたときに隙をついて逃げればいいか…」

仕方なく、すごすごと店の中に入っていくA。すっかりエロい気分は萎えてしまっていたが、店の中でぼーっとしているのも不自然だし、というかそのほうが店主になにされるかわからなくて怖い。

緊張した手で、とりあえずいくつかの商品を漁ってみる。とくに安くはないものの、法外な値段とも言えず、ひとまず安心だ。

だが、その安心を一瞬にして粉々になってしまう「ポップ」が各DVDに貼られてあることに気づくのにさして時間はかからなかった。

「今日は絶対買うぞ!」

「買わなきゃ帰れないぞ!」

「いまこの商品を見ているあなた……買いたくなったでしょ?」

いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

恐怖で震えあがるAに追いうちをかけんとばかりに、コワモテ店員が口を開いた。

「どんな品物をお探しですかああああああ!」

「あっ。……えーっと、あの、その、……エロいの」

Aは馬鹿だった。

「お客さん、ウチの品揃えはそんじょそこらとはわけが違うよ! もしウチでお気に入りのモノが見つからなかったとしたらお客さん、……アンタ変態だね」

「あっ。……これは、無理」

馬鹿な友人Aはそう思ったらしいが、店内に入ってからおよそ30分。客は誰ひとりして入ってこなかったし、たとえ誰か入ってきたとしても逃げ出せたかどうかも怪しい。もうすべてに従うしかなかった。

 涙の数だけエロくなれるよ

結局、「緊縛なんたら」というタイトルの、たいして欲しくもない「エロいの」をゲットしたA。購入特典として目の前に差し出された「300円の割引券」「ローション」「オナホール」、その中から選んだローションを握り締めつつ、

「こんなのいらんから、店に入る前の俺のウキウキしていた気持ちを返してくれ」

と、彼が泣く泣く家路に着いたのは言うまでもない。