- アーティスト: プロレス,コント赤信号,阿修羅・原,Jungle Jack,ストロング金剛,クラッシュギャルズ,長州力,ビューティ・ペア,東京ソフィア混声合唱団,ファイヤージェッツ,ゲイスターズ・プラス・アルファ
- 出版社/メーカー: キングレコード
- 発売日: 1999/12/23
- メディア: CD
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かつて私はプロレスを死ぬほど愛していた。
テレビ放送の時間になるとブラウン管の前で夢中だ。『週刊ゴング』と『週刊プロレス』は毎週欠かさず買っていたし、学校の休み時間になると同士たちと共に教室の隅で毎日のように「試合」を繰り広げていた。連日の死闘によりケガは日常茶飯事で、ときには欠場も余儀なくされた。休日には小遣いを握り締め都内のプロレスショップへ足を運び、ゴングと週プロのバックナンバーを買い漁り、レスラーが写るポスターを買い、レスラーたちの入場テーマ曲が収録されたCDを購入したりもしていた。
そんな自他共に認めるプロレス・マニアなガキんちょであった私だが、まったく知らなかったのだった。
「プロレスラーの多くは歌をうたい、レコードとして発表していた」
どうやらそんな時代があったらしい。
本作は往年に活躍したプロレスラーたちがうたう楽曲を紅白歌合戦風に編成したコンピレーション盤である。
収録楽曲はどれもが異様であり異形だ。ロックやポップスとは何かちがく、パンクやブルースとも言えず、あるいはプログレ、はたまたテクノなんていう括りにも収まる代物ではない。溢れんばかりの情熱は感じられるものの、言ってしまえば「おそろしくイケてない」、ながらも、なんとも愛らしかったりする奇蹟的な産物だ。
「プロレスラーは歌がヘタな人たちばかりだ」
という、あまり知りたくないことも気づかされたりする“迷曲”“奇曲”のオンパレードであり、「ちがった意味で楽しめる」内容である。
そんな中でも惑星ひとつぶん突き抜けているのが7曲目『マッチョドラゴン』、歌うは“炎のドラゴン”藤波辰巳である。
ここで確認しておきたいのは、
「通常、人はヘタな歌を聴くと不快な気分に陥る」
ということだ。
まして“作品”として発表されたものとなれば、購入した側からすると、その歌い手の皆が抜群にとは言わないまでも、最低限のレベルは保ってくれてないと頭に来るのは当然であろう。
そういった意味で、この『マッチョドラゴン』での藤波の歌は、じつにヘタだ。
だが、これがとても笑えるのである。
「カラオケとかで音痴な人の歌を聴いて失笑なんてよくあるさ」
などど、高速でツッコミを入れる輩があるいはいるかもしれないが甘い。
そんなレベルでは断じてないのだ。
音程は不安定極まりなく、声量も皆無に等しい。リズム感も最悪で、とてつもなくヨレヨレでグダグダな歌唱だ。そのくせレスラーっぽく気張ってうたおうともしているのだが、いかんせん間の抜けた歌声なので、大便を出そうといきむガキの喘ぎ声のようにも聴こえたりする。さらには
「♪あざや~かにきまるわ~ざわ~な~いふのきれあぢー」
とうたわれる部分ではメロディの音階に詞が収まりきれず字余りのようになったりで、ちょっとこれは尋常でないと余計な心配もしてしまうほどだ。そして、それらと対をなす、無駄に勇敢な歌詞と妙に上手いバックバンドの演奏が重なり、じつに珍奇な音世界を形作っていて、こんなヘンな曲は地球上探してもないんじゃなかろうかと愕然とするばかりなのである。
しかし、それでも無邪気に爆笑できてしまうのは、辰っつあんの超然としたキャラによるところも大きいだろうが、なにより彼の歌唱が半端という言葉をまるで知らないからだ。徹底的にしょーもないものは、徹底的に笑えるのである。
おそらくは強固な自信を抱いて歌を吹き込んだのであろうドラゴン、困惑の心境でリリースを英断したであろう関係スタッフの心中たるや、我々の想像を絶するものである。だが、いずれにせよ、それは、ちがった意味でとても偉大だと思う私なのである。
【全曲解説】
①オープニング「乾杯の歌」 評価なし
本家・紅白の歌手入場歌として使われてるそうだが、私は紅白をしかりと拝見したことが一度もないのでよく知らぬ。
②闘え!ファイヤージェッツ/ファイヤージェッツ ★★
世代的事情もあって声の主がわからぬ私だが、どうやら女子プロの人らだ。曲調は「なんとか戦隊」のテーマソングのようであり、バックバンドの演奏が無駄に上手かったりする。
③ローリング・ドリーマー/ジャンボ鶴田 ★★★★☆
鶴田VS三沢ら超世代軍の闘争にはバカのごとく熱狂した。あの頃は鶴田が最強だと本気で思っていた。そんな今は亡き鶴田の歌唱は朴訥ながらもせつなく、なんだか泣けてきたりする哀愁が漂っている。正直、マジで好きだ。
④颱風前夜/海狼組 ★★★☆
知らないが、海狼隊=「マリンウルフ」と読む女子プロの人ららしく、曲調は森口博子らへんがうたってそうなアニメ主題歌のような、まあそんなような感じだ。
⑤ウルトラ・バズーカ/高野俊二 ★★★★☆
俊二改め現(?)高野拳磁のナルぶりが如何なく発揮された楽曲だ。ファンキーなブラック・ミュージック風であり、詞は全編英語。さすがデヴィッド・ボウイを「バウイ」と呼ぶ男だと褒め称えるべきであろう。
⑥(CHANCE)3/J.B.エンジェルス ★☆
これも私にはまったくわからぬ女子プロの人らだが、昔懐かしきアイドルソング風という域を脱せてなく残念だ。
⑦マッチョドラゴン/藤波辰巳 ★★★★★
耳にした誰もが唖然とするであろう、全てが規格外のモンスターナンバー。私は死の間際にこの曲を聴いて、そのままあの世へと旅立ちたい、と思っている。
⑧極悪/ダンプ松本 ★★★★☆
いきなりの直球な曲名に恐れおののくばかりだ。棒読み極まりない歌唱はだいぶヘタで、これもちがった意味で凄い。
⑨星空のグラス/大仁田厚 ☆
私は大仁田の押し付けがましいところがどうも好かないので、この曲の己に酔ったふうの歌唱もじつに苦手だ。
⑩男は馬之助/コント赤信号 ★
コント赤信号による上田馬之助の応援ソング。予想どおり「ユニークな感じ」の仕上がりとなっているが、今となってはあまり楽しめるものではなかろう。
⑪ゆき子/阿修羅・原 ★★★★☆
阿修羅といえばやはり私は天龍との龍原砲を思い浮かべる。本格的演歌風で、うたもプロ並に上手い。阿修羅はここでも名脇役であった。
⑫炎の叫び/Jungle Jack ★★★★
アジャ・コングとバイソン木村によるタッグ・チームのロック調ナンバー。アジャのヴォーカルというか掛け声らしきものがなんとも酷すぎなのだが、幸運なことにメイン・ヴォーカルはバイソンであって、ここいらへんはスタッフの賢明なる判断がうかがいしれるというものであろう。
⑬俺は闘犬/ストロング金剛 ★★
金剛と聞いて思い浮かぶのは『風雲たけし城』であって、現役時代のことは殆どわからぬ私だ。歌唱のほうはヘタでなし、かといってそんなに上手くもない、要するに素人レベルである。
⑭炎の聖書/クラッシュギャルズ ★★★
ライオネス飛鳥と聞いて思い浮かぶのは「ライオンズマンション」であって、したがって全盛時代のことは殆どわからぬ私であり、曲調だが、やけにポジティヴな青春ソング調だ。
⑮明日の誓い/長州力 ★★★★
ヤサグレた歌唱がなんだかいかにもな感じだ。ちなみにウチのかあちゃんが昔、長州みたいな髪型にしたことがあって、調子にのって「長州! 長州!」言ってたら怒られたりもした私だ。
⑯かけめぐる青春/ビューティ・ペア ★★★★☆
この人らもほとんどわからぬ私だが、さすがにこの曲は知ってる。冷静に聴けばまるで上手くない歌唱だが、曲はやはりいい。
⑰エンディング「蛍の光」 評価なし
M1同様、こちらも本家・紅白を真似たエンディングらしいのだが、だから私は紅白をちゃんと見たことがないのです。
総評(とにかくドラゴンで)★★★★★