高校のころ、クラスメイトのひとりがバンドを組むことになって、「いいバンド名が思い浮かばないので、お前らも一緒に考えてくれないか」という話になった。
ロック・バンドである。
「いかにもロックって感じの、いかしたバンド名にしてくれ」
との希望だ。
私を含めクラスの暇そうにしている奴らが協力して考え、様々なバンド名が挙がったと記憶しているが、細かい部分は忘れた。
ただ、最終的に候補に残ったバンド名はいまでも覚えている。これだ。
「アトミック・ボム」
直訳で「原子爆弾」だ。
なぜよりにもよってこんなダサいバンド名が最終候補のひとつになってしまったのか。馬鹿しかいなかったからである。
「アトミック・ボム」なるバンド名がじっさいに採用されたかどうかはやはり覚えていない。おそらく採用されなかったはずだ。そう願いたい。
まあ、「アトミック・ボム」なるバンドがMステに出演したなんて話は聞いたことがないし、フジロックやサマーソニックのラインナップに名を連ねていた記憶もないので、万が一採用されてしまっていたとしても売れてはいないはずだ。
売れてなくて本当に幸いである。
仮に売れてもないのに現在も性懲りもなく「アトミック・ボム」なるバンドが活動しているのなら、即刻バンド名を変更するか解散してほしいと切に願う。
以前、知人と音楽の話をしたときのことだ。好きなバンドを聞かれ、「ゆらゆら帝国」や「ザゼン・ボーイズ」などのバンド名を挙げていったら、「そんなヘンテコな名前をしたバンドの音楽なんて聴く気が起きない」と言われてしまった。
そんなことで耳を傾けるべき音楽のジャッジを下す知人に閉口したが、たしかにふと冷静になって考えれば、やってる音楽はともかく、「ゆらゆら帝国」にしろ「ザゼン・ボーイズ」にしろ、あきらかにメジャー向きのバンド名ではないだろう。きっと「ゆらゆら帝国」も「ザゼン・ボーイズ」も、知らない人間からすればどんな奇っ怪な音楽を鳴らしているんだとイメージされるに違いない。
もちろん音楽にも様々なジャンルがあるように、ちょっと風変わりな名前を持つバンドは少なくない。というか、こんなもんじゃない。とりわけ70年代、日本のロックの地下シーンにムーヴメントを巻き起こした一連のバンド群はきわめて強烈で個性的な名前が多い。
「赤痢」
「ガーゼ」
「暗黒大陸じゃがたら」(後に「JAGATARA」」に改名)
「ハナタラシ」
「頭脳警察」
「非常階段」
いずれも不穏で淫靡であり、なおかつなんとも魅力的な味わいを醸すバンド名だ。
「INU」
町田康が組んでいたパンク・バンドの名前であり、これもこれで町田康ならではの味が感じられるバンド名だが、その「INU」の前身バンドの名前がまた凄い。
「腐れおめこ」
間違っても公共の電波に乗せられるバンド名ではないだろう。
仮に「腐れおめこ」が売れてしまっていたとしたら、NHKに出演する際には「玉袋筋太郎」→「知恵袋賢太郎」のように、「腐れおめこ」→「もぎたて新鮮アワビ」 なんつった感じに強制的に措置がなされていたに違いない。
というか、「腐れおめこ」じゃNHK以外のテレビ局もあきらかに無理だ。さすがにテレ東だって無理だろう。
「原爆オナニーズ」
やはり上記バンドと同じ時期に結成されたいまも現役の重鎮バンドであり、「原爆」「オナニー」という、いずれの単語も言葉の破壊力が半端ないうえ、しかもそれらの単語が組み合わさったうえ複数形になっているのだからなんだか凄まじいことこのうえない。なにより「売れたい」という大衆への媚びた姿勢を微塵も感じさせないのが感動的だ。じつに清々しいばかりである。というか、いまさらな話だろうがどんな状況なんだ「原爆オナニーズ」って。
これでやっているのが「親にマジで感謝」とか歌っている普通の売れ線のJ-POPだったら笑うが、さすがにそこはれっきとした骨太パンク・ロックなのであった。
Nuclear Cowboy+O'dd On Liveitself+PUNK ROCK MONSTER
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