どうも私は怒るのがヘタな人間らしい。
たとえば、以前通販を利用したときのことだ。
ある商品が欲しくて通販会社に電話して注文したものの、そのまま1週間2週間と、いつまで経ってもその商品がやって来ず、いいかげんしびれを切らして通販会社のほうに電話をした。そしたら、電話に出た担当の女から
「あっ……申し訳ありません。発送するの、忘れてました」
という、およそありえない返答をされたのであるが、そんなありえない返答をされたにもかかわらず私のほうのリアクションといえば
「はあ、そうですか」
みたいな、もう、我ながらお見事と言いたくなるほどの怒らなさっぷりであったわけで、なんなら半笑い口調で
「なんかすいませんねえ、でへへ~」
みたいな、とくに悪いことしてない私が謝ってるような雰囲気さえ醸すという、見事なまでのマヌケっぷりなのであった。
こんなことは日常茶飯事であり、山のようにある話のひとつに過ぎない。
実際、友人からは以前、
「そういや、お前が怒ってるのって、ほとんど見たことないな」
と、関心半分呆れられもしたものだ。
なにしろ上手な怒り方がよくわからないのだ。
まあ、怒り方にもいろんなタイプやシチュエーションがあるだろうが、まさにここぞの場面でというか、
「よっしゃ、怒ろう」
みたいな、いわば「怒りの絶好機」において、その要所要所を一点も逃さず、「怒り」という名のクリーンヒットを的確に重ねていくような輩に遭遇すると、プロだな、と思うし、本当に尊敬する。
つまり、怒り方にも技術が必要だ、ということなのだろう。
もちろん、どうせなら怒られるより怒るほうが気分がいいのは誰だって同じなはずだ。なにより、誰もが生き馬の目を抜こうとする弱肉強食の社会情勢である。一日一善、ならぬ、「一日一怒」ぐらいでなければ、この厳しい社会ではやってはいかれないだろう。
そこで、まことに僭越ながら、ない知恵を振り絞って「正しい怒り方」のいろいろについて考えてみた。私と同じような「怒りベタ」だという輩は、本テキストを参考に、これからの人生に役立ててくださりますれば幸いだ。
タイプ①「スタンダード怒り」
仕事でなんらかのミスをした部下や、悪さをした子供と対するときに必要なもっともスタンダードなタイプの怒り方。
とはいえ、スタンダードといってもじつはそう容易に出来ることではないというのは、社会的に偉い立場に立っている人や子を持つ親ならよくご存知だろう。
では、なぜ容易ではないのか。
それはズバリ、その「怒る人」自身が会社の部下や子供から尊敬されてないのが原因なのではないか。
胸に手を当てよく考えてみてほしい。
「俺はいま、怒るべきだろうか」
「怒ったら、むしろ反発されるんじゃないか」
「というか、俺、ナメられてるんじゃないか」
そう己が考えてしまっている時点で、もはや貴方が相手から尊敬されてないのは明白である。
なので、部下や子供から尊敬されるような立派な人間になろう。
と、口で言うのはたしかに簡単だが、実際それはなかなか容易なことではないだろうし、第一、面倒だ。
「パチンコや風俗遊びだってしたいし、なんなら働きたくない!」
そんなバカボンのパパさん(41)の心の叫びが聞こえてくる今日この頃である。
なので、ここはひとつ、会社の部下や子供が実際に尊敬している人物の名を挙げて怒ってみる、というのはどうか。
いくら馬鹿な部下や頭の足りない子供だって尊敬している人物のひとりやふたりいるはずであり、つまり、
「キミぃ! おとついの商談、あれはああしなきゃダメじゃないか!……って、昨日テレビで池上彰も言ってたよ」
「こらツトム! ちゃんと勉強しないと立派な大人になれんぞ!……って、こないだワンピースのルフィに会ったんだけど、なんか彼もそんなような考えらしいよ」
というふうに怒れば、怒られた側も納得するだろうし、万一怒っている内容が見当外れだとして部下や子供のその後の人生を狂わせたとしても、池上某やルフィ某のせいにすればいいことだ。そうとわかれば積極的に怒ろう。
タイプ②「みだれ怒り」
たまになんかよくわからないが目にするものや触れるものすべてに対して一日中怒りまくっている輩がいるが、それがこのタイプである。
なにしろ理由が定かではないので、相手をしている側からしたらたまったものではないが、じつは対人関係を形成する上でひじょうに効果的だったりするのだから人生とは愉快なものだ。というのは、「年がら年中怒っている輩」と周りの人間に認識されれば、とりあえず誰からもナメられなくなるからである。
とにかくナメられたくなければ、何事に対しても怒る訓練を日々欠かさぬこと。雨が降ってきやがったと言っては怒り、はたまた天気になってきやがったと言ってはあたりかまわず勇猛果敢に怒ろう。そのうち、戦車に乗ったヤクザや、駅でマッチ売りをしている少女に対しても怒れるようになれば、貴方も立派な大人の仲間入りである。
タイプ③「逆ギレ怒り」
どう考えても悪いのは自分なのにそんなことはおかまいなしとばかりに周囲に向かって当り散らす高等技術がこちら。
たとえば、交通事故を起こしたりしたときなどに
「ああん? なんでオレの車、ブレーキがきかねえんだよゴルァ!」(←実際には車にとくに異常はなく、事故の原因は単に自分のブレーキの踏み忘れ。で、本人もそのことをじつはわかっている)
などと、意味不明にキレるタイプがこれであり、知り合いに該当するタイプの輩がいるという人も少なくないんじゃないかと思う。
なにしろ言ってることが無茶苦茶なので、実践するとなると困難を要するだろうが、実際の使い手を観察してわかったのは、どうやら、周囲の人間が口を挟めぬぐらいに「ハイテンションでいること」がポイントらしい。
なので、休みの日は部屋でB’zの「ウルトラソウル」あたりを大音量&エンドレスでかけまくるなどし、日々ハイテンションでいることを心がけてほしい。
タイプ④「酔いどれ怒り」
酒を飲んで酔っ払うと陽気になるのが普通だと思うが、なぜか酔ったとたんに怒りやすくなる輩を目にすることも少なくない。おそらく日頃溜まった鬱憤を酔った勢いで発散している、ということなのだろう。
そういえば、無礼講という先祖代々から伝わる慣習があるが、たとえば会社の飲み会の席で上司のハゲ頭に己のちんぽを乗せ「ちょんまげ!」とやらかしたうえ
「ああん? なんか文句あんのか! このハゲ!」
などと啖呵を切ったとしても
「まあ、酔ってるし、しかたないな」
みたいに誰もが思うものであり、これなんか「酔いどれ怒り」を都合良く利用した高等技術と言っていいかもしれぬ。
習得方法としては、まああくまでも例としてあれすると、たとえば和田アキ子とか神田うのなどの芸能人が出演しているテレビ番組を録りためたビデオを自宅で飲む際に必ず視聴するとか、ようするに「酒=不快」というイメージを植えつけることが効果的なのではなかろうか。
タイプ⑤「理不尽怒り」
「味噌汁が熱い」とか「カラスが黒い」など、ちょっとタイプ②の「みだれ怒り」と似ているが、こちらのほうがより理不尽かつ意味がわからないだけに難易度が高い。「カレーが辛い」だの「シャワーが熱い」だのの理由で怒って仕事現場から帰ってしまったというX JAPANのYOSHIKI氏がこのタイプの代表的な人物と言えようか。なので、やはりここはX JAPANのコンサートに通い詰めることが習得の近道であろう。健闘を祈る。
以上であるが、まあなんともふざけた内容となってしまったわけで、万一この駄文を読んでしまった人に怒られやしまいか、とりあえずそのことが心配でならない。