何も言えなくて…夏

朝晩とめっきり涼しくなってきた。日中はまだ暑苦しさが多少残ってはいるものの、今年の夏も本格的に終わりを迎えつつある。

過ぎゆく夏……夏といえば、私はあの日の出来事を思い出す。

もう数十年前のことになる。

私は小学生だった。

学校が夏休みになると、私と兄と弟の3兄弟は、母方の親戚である叔父さんのウチへ泊りがけで遊びに行くことが恒例となっていた。

あれは小学何年生のころだったろうか。その年の夏休みもやはり叔父さんちのほうまで遊びに行った。

宮城県の片隅の、集落と言えるようなひっそりとした場所に叔父さんのウチは建っている。

周りはあたり一面がたくさんの木々で囲まれており、叔父さんち以外の民家はまるっきり見当たらない。通りで誰かが歩いている光景なんていうのはまず見かけることはなく、1時間のあいだに車が一台通り過ぎればいいほうだった。

叔父さん一家は酪農と畑仕事で生計を立てており、家と庭とを合わせて学校の校庭2個ぶんはあろうかと思われる広大な敷地に毎度出向くたびに圧倒された。庭の大部分は農作物を育てるための畑が耕されており、少し離れた一本道を隔てた場所には牛や豚を飼育している家畜小屋もあった。

我々3兄弟は、叔父さん、叔母さん、さらにその子供たちと共に田植えをし、牛の乳を搾り、畑で生った大根を引っこ抜き、そして大いに遊んだ。

水道水がやたらと美味いことに仰天し、ジュースのようにガバガバ飲みまくった。

テレビ番組がヘンテコな時間に放送されていたのにも驚いた。たしか『笑っていいとも!』は夕方ごろに録画で放送されていたのではなかったか。

とにかく、関東のそれなりに都会っぽいところに住んでいる我々3兄弟にとってはなにもかもが新鮮な体験だったと記憶している。

ほんとうに楽しかった。

ただ一点、叔父さんちのトイレが汲み取り式のいわゆる「ボットン便所」だったことを除いて。

 

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私はあのボットン便所がいやでいやでたまらなかった。用を足そうとトイレへ行き、足元に広がっている深く暗い闇に包まれたボットン穴を確認するたび、恐怖でおののいた。

「ここに落ちたら死ぬんじゃないか……」

ある日のことだった。不意にうんこがしたくなった。

どういう事情でそうなったのか忘れたが、そのとき私は叔父さんちでひとり留守番をしていた。

野グソをすることにした。

和式はいやだし、どうせ誰にも見つからないだろう。

即決だった。

庭の隅っこのあたりの野原で糞をした。

「……これは……なんて気持ちいいのだろうか……」

宮城に来て以来はじめてと言っていい快便だった。私は生涯初となる野グソの快感に打ち震えていた。

ただ、あいにく私は頭の足りないこどもだった。「紙」を忘れてしまったのだ。

「しょうがない。葉っぱで拭こう」

はじめて葉っぱで尻を拭いた。ちょっと痛かったが、このまま尻に糞が付いた状態でさすがに家へ戻るわけにはいかない。

葉っぱで尻を拭き慣れてないため、少々手間取っていた。その刹那だった。

「ブロロロロロロロ~」

 

 

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スクールバスだった。

野グソをしている最中の私の目の前を通り過ぎていった。

ドライバーのおっさんも、若い女の先生も、大勢のガキどもも、尻丸出しでしゃがみこんでいる私を見て笑っていた。

「よっしゃ、死のう!」

はじめて自殺を考えた。

あれから数十年が経つ。

叔母さんはかなり前に亡くなってしまったが、叔父さんのほうはご健在で現在はおじいちゃんと言える年齢になっている。

この場を借りて謝りたい。

ごめんなさい。叔父さんちの庭で野グソしたの、私です。

 

今週のお題「私のおじいちゃん、おばあちゃん」

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