映画『アンストッパブル』‐どんなに困難でくじけそうでもアメリカ人はひたすら「取り立てておもしろくないジョーク」をかます‐

ハリウッド映画やデーブ・スペクターを見ればわかるとおり、アメリカ人のジョーク好きは異常だ。一般人のみならず、お国のトップである大統領でさえも公式会見などで普通にジョークをかましたりする。

そう、いわゆるアメリカンジョークというやつだ。

まあ、ジョークをかますのは一向に構わない。

が、それにしても、そのかましたジョークの大半が「取り立てておもしろくない」のにもかかわらず、なぜ奴らはあんなに堂々としていられるのか。

アメリカではスピーチの場でジョークを言えるようになってはじめて立派な大人として認められる、という話を訊いたことがある。

ようするに

「どんな状況に置かれても、ジョークのひとつを飛ばせるくらい心に余裕を持った人間であれよ」

という、かの国ならではの心得なのだろう。

だから、かましたジョークがおもしろいかおもしろくないかはとくに問題ではないわけで、アメリカンジョークの本質とは、つまり「余裕を見せつけること」にあると言っていい。

実際に数年前アメリカ本土で発生した鉄道事故をもとに制作されたという『アンストッパブル』を観た。

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あるひとりの鉄道職員にミスにより毒物を積んだ無人の貨物列車が暴走。最悪の事態を回避するため機関士や警察らが暴走する貨物列車をどうにか停止させようとする。

暴走列車を食い止めるため貨物列車に乗り込み最前線に向かうのはベテラン機関士役のデンゼル・ワシントンと新米車掌を演じるクリス・パインだ。

ちなみに現実に起きた事故は「CSX8888号暴走事故」と呼ばれているそうでウィキペディアにも載っている。もちろんあくまでも映画なんだから脚色された部分もあるのだろうが、これらから判断するに、本作は概ね事実に基づいて描かれた内容と言えるのだろう。

にしても、暴走列車を追いかけている最中のデンゼルとクリスはどうなのか。

なにしろ列車同士の連結が失敗ともなれば、暴走列車が脱線し大都市に毒物がばらまかれてしまうというきわめて逼迫した状況なのである。

にもかかわらず車中、隙あらばお互いの身の上話に興じるデンゼルとクリス。

しかもデンゼルに至ってはいちいちジョークまでかますわ、かまされたクリスのほうもニンマリ微笑み返すわで、なんだか余裕綽々といった感じなのである。

ちなみにネタバレになってしまうが、暴走列車はデンゼルとクリスの2人の手によって見事食い止められ、最悪の事態は免れることになる。

結果が良かったからいいが、仮にこれが連結に失敗し、最終的に大惨事を迎えていたとしたら、

「もっとマジメにやれや、オメーら!」

と責められたとしても仕方がないだろう。

まあ、普通に考えたらこれこそがストーリーを盛り上げるために脚色された部分であり、きっと本物の本人らは身の上話に興じたりつまらないジョークをかますこともなく、真剣かつ必死にことの解決に取り組んだのだろうが、しかしなにせアメリカ人のことだ。実際に映画で描かれているとおりの余裕綽々な2人であったとしてもまったくおかしくはない(まあ、この2人自体が映画用の「創造された人物」なのかもしれないが)。

ちなみに前述の劇中かまされるデンゼルのアメリカンジョークは、当然ながらビタ一文おもしろくなかった。