映画『ロード・オブ・カオス』-デーモン閣下も一歩間違えればこんな感じになってたかも-

「なんか北欧らへんのブラック・メタルの人らがヤベーらしい」

というのを知ったのは、いつ、なんの媒体だったか。

音楽雑誌か、ロックのムック本か、あるいはネットで得た情報だったか。

いずれにせよ、私は興味が湧いた。で、ネットで検索したらウィキペディアに詳しく載っていたのでざっと目を通した。そして、ウィキペディアの記事にひととおり目を通した私は「なんだかわからんがヤベー人らがいたんだな……」と、とにかく驚いた。

というわけで、映画『ロード・オブ・カオス』である。ノルウェーのブラック・メタル・バンド「メイヘム」のメンバーたちの間で起こった、ただただ驚くしかないヤベー騒動を描いた実話ベースの物語である。

 

映画の主人公はユーロニモスなる人物だ。メイヘムの創立者で、リーダーで、そしてバンドのギタリストでもある。自身でレーベルを発足・運営し、メイヘムの活動のみならず他のバンドのサポートも行ったりショップを開きレコードを売ったりしている。

これだけ見ると立派な人物である。

問題はユーロニモスがサタニズム、つまり悪魔崇拝主義者であることを謳っていたことだ。

ユーロニモスのサタニズムは基本的に単なる話題作りというか、あくまでも自分やメイヘムを有名にするためのハッタリで、ようするに「ボケ」であり「ネタ」でしかなかった。劇中「事実と虚構を織り交ぜた実際の出来事に基づく物語」とテロップが出てくるので、実際にはまた違ってたりする部分もあるのだろうが、少なくとも本作ではそのような人物として描かれている。

ようするに、あの聖飢魔IIのデーモン閣下と似たような「キャラ設定」をしている人物と考えればよろしいだろう。

とにもかくにも、悪魔がアレでだとかが本気であれキャラであれユーロニモスはハッタリを吐くのが上手くてカリスマ性のようなものがあった。そして皮肉にもそういったユーロニモスが持っているある種の魅力的な資質が悲劇に繋がる。

なにしろユーロニモスはハッタリ上手でカリスマ性がある人物だ。ユーロニモスの大義名分であるサタニズムに同調する者らが次第にわんさか集まってくるようになる。

キーとなる人物は3人だ。

まず、一人目は「デッド」という男である。もちろん「デッド」は芸名だ。その名のとおり希死念慮を抱えている鬱持ちの若者である。

デッドはユーロニモスに才能を買われメイヘムのヴォーカリストに抜擢される。ただ希死念慮は一向に治らず、たびたび奇行を繰り返す。

そんなデッドに対してユーロニモスは言う。

「鬱から抜け出したけりゃ簡単だ。頭に一発ぶち込めば終わりだ」

ユーロニモスとしてはデッドに発破をかけるつもりで言ったセリフだった。

そしてデッドは死んだ。ナイフで手首と首を切り裂き、それからショットガンで頭を撃ち抜いてしまう。つまり、ユーロニモスに言われたことをそのまま実行してしまうのだ。

二人目はヴァルグだ。ヴァルグはユーロニモスが提唱するサタニズムに同調し、一度は無碍にされるものの、やがてヴォーカリストとしての才能が認められ、最終的にはメイヘムのベーシストを務めることになる男である。

ある日、ユーロニモスはヴァルグに以下のようなセリフを吐く。

「教会は偽善に満ちている。全部焼き払っちまおうぜ」

ユーロニモスからすれば「ユーロニモスさんカッケー!」とかなんとか尊敬してもらいたくてなんとなく言ってみただけのセリフだったはずだ。

後日、大変な事件が起こる。なんと「何者かの手によって教会が焼き払われました!」とニュースになっているではないか。犯人はヴァルグだった。

「よくやった! おまえは英雄だ!」

ヴァルグを褒め称えるユーロニモスだが、あきらかに「マジかよ…」といった感じで一瞬目が泳いでいる。

三人目はユーロニモスと同居している青年だ。ホラー映画ばかり観ている彼はある日ユーロニモスに以下のような質問をしてくる。

「なあ、人間を刺すってどんな感じかな?」

「んなもん、試してみればいいじゃないか」

後日、またまた大変な事件が起こる。「おっさんが何者かによってナイフで滅多刺しにされ殺害されました!」とニュースになっているではないか。

「俺がやった」

そう口にしたのは、もちろんルームメイトの青年である。

「そ、そうか……。おまえ、やるじゃないか! おまえは新たな英雄だ!」

今度はルームメイトの彼を褒め称えるユーロニモスだが動揺っぷりがハンパない。「もうこうなったらなるようにしかなんねえ!」という心の声が聞こえてくるようだ。

ようするに、周りに集まった連中があろうことか「ホンモノ」だったのである。

「ぬはははは! おまえも蝋人形にしてやろうか!」

デーモン閣下のお馴染みの名ゼリフである。

もちろん、大抵の人間は「ボケ」や「ネタ」や「ギャグ」として認識するはずだ。しかし、真に受ける人間がいないとも限らない。

「デーモンさん、さすがっす! 俺も協力しますよ! さあ人間どもを全員蝋人形にして地球を征服しようではありませんか! ぬはははは!」

こんな奴が現れたらデーモン閣下も頭を抱えてしまうだろう。

ユーロニモスの悲劇がまさにそれだったのである。

まあ、笑った。コントじゃないか。

しかし、当人は笑えなかったろう。つーか、私だってただの傍観者だから笑えるのであって、自分もおんなじような目に遭ったら絶対に笑えるわけがないのだった。

笑えるが恐ろしい。酷い悲劇だが同時にじつにおもしろいお話でもある。

そんな映画だった。

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