映画『ザ・ターゲット』‐Q.「獣神サンダー・ライガーの正体は?」A.「山田だろ!」的な謎かけ‐

チャーリー・シーン、リンダ・ハミルトン、ドナルド・サザーランドという、そこそこ豪華なメンツが揃った『ザ・ターゲット』を観た。

 

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観ながら思ったのは「この感じ、前に観た映画と似てるな」ということだ。

リーアム・ニーソン主演の『フライト・ゲーム』である。

 

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べつにストーリーが似ているわけではない。ただ、「楽しむためにはプロレス的な視点を必要とする」という意味でこの2作は共通する部分があるのではないか。

政府職員の中に大統領暗殺を企てている人物がいることが判明。大統領補佐官であるチャーリー・シーンとジャーナリストであるリンダ・ハミルトンが協力しながら

「裏切り者は誰だ! とっ捕まえてやる!」

みたいな感じで真相に迫る。

ドナルド・サザーランドは首席補佐官で役職的にはチャーリー・シーンの上司だ。ヒットマンに追われ殺人の容疑者という濡れ衣まで着せられたチャーリーを親身になって助けようとする。そんなドナルドに対してチャーリーもじつの父親のように信頼を寄せている。

なので、「裏切り者は誰だ!」的な謎解きが肝であるはずの映画なのだが、本作はその肝がまったくもって抜け落ちてしまっている。

いったいどういうことなのか。

かなり序盤の段階で裏切り者が誰だか簡単にわかってしまうのである。

べつに私は名探偵コナンばりの推理力に長けている人間というわけではない。おそらく小学生ぐらいの子供でも「こいつが裏切り者だ!」とすぐにわかるだろう。

というのは、本作に登場する政府職員が揃いも揃って存在感が希薄なのだ。

その中にひとりだけキャラが立っている人物がいる。

そいつが裏切り者なのである。

なんのヒネリもないのである。

つまり、本作『ザ・ターゲット』は、かなり早い段階で裏切り者の正体を知りながらそれでもなお鑑賞をするための忍耐力・包容力のようなものが必須であると言えよう。

「絶対こいつが裏切り者じゃん! 馬鹿馬鹿しい! 観るのやーめた!」

と、早々に匙を投げてしまう人だっているかもしれない。だが、プロレスを愛好している人間なら、「しょうがねえなあ…」と思いつつ、最後まで付き合ってあげることができるのではないか。

なぜなら、これはプロレスでいうところのマスクマンと原理的には一緒だからだ。

たとえば、スーパー・ストロング・マシンの正体は誰か。

「おまえ、平田だろ!」

と、かつてドラゴン藤波はリング上でそうマイクパフォーマンスをしたものであるが、そんなことはわざわざドラゴンが言わずともプロレス愛好家なら誰もがわかりきっていたことだ。

また、ある日の試合ではジャイアント・マシーンなる謎のマスクマンが登場した。いったい正体は誰なのか。

「アンドレじゃん!」

一瞬で誰もがわかった。なぜなら、いくらマスクを被っているからってあんなバカでかい図体をした人間はアンドレ・ザ・ジャイアント以外には考えられないからだ。

「ア~ンドレ! ア~ンドレ!」

しまいには謎のマスクマンのはずなのに場内の観客からアンドレコールまで沸き起こった。

この、どんなおかしなことにも対応できる忍耐力・包容力こそがプロレスを愛好している者たちの最大の武器であり特技なのだ。

「なんだこりゃ! くだらねえ! 気を取り直して『スシ王子』でも観よう!」

と、すぐに停止ボタンを押したそこのあなた。

もっと広い心を持つべきだ。

正体がわかりきってたってべつにいいじゃないか。所詮エンターテインメントなんだから楽しんだ人間の勝ちだ。

さあ、もう一度再生ボタンを押してほしい。やはりプロレス観戦するノリで鑑賞するほうがより楽しめるだろう。

ベビーフェイス派の人は「チャ~リ~! チャ~リ~」とシュプレヒコールを上げればいいじゃないか。ヒール派の人は「ド~ナルド! ド~ナルド!」と声援を上げればいいじゃないか。

あっ……。