春だ! 卒業だ! 就職だ!
ということで、大多数の輩どもが一般社会という名のレールに乗っかっていく中、そんな決まりきったレールなぞに脇目も振らず、「ロックバンド結成」という大いなる目標を夢見ている青年どもも多かろうと思う。
では、ロックバンドを結成することで生じる「利点」とはなにか。
●会社に行く必要がないので早起きしなくても良い
●嫌な上司にペコペコする必要がない
●女にモテる
●一般的な常識など一切いらないどころか、むしろ「破天荒」だったり「ムチャクチャ」であればあるほど周りの人間から尊敬・賞賛される
これだけではない。仮にそのバンドが将来的に売れた場合は、
●サラリーマンでは一生かかっても無理と言えるほどの莫大な報酬を手にすることができる
●グラビアアイドルと恋愛・本番・結婚することができる
●文化人としてテレビの出演や本を出版することができる
●なんだかエラソーな気分になれる
などなど、まさに至れり尽せりなのである。
そこで今回は今日の我国に於いてロックバンドなるものを結成してみたいという青年どものために、はじめてのロックバンドの結成について秘訣を伝授したいと思う。是非このテキストを参考にして、ロッキンかつ立派な大人どもに育ってくださりますれば幸いだ。
①音楽性を決める
まずロックバンドを結成する前に、実際にバンドを結成した上で表現したい「音楽的ジャンル」を決定することがなによりも重要である。
ちなみにロックバンドのジャンルは、
1.ポップロックバンド
2.パンクロックバンド
3.ハードロック(ヘヴィメタル)バンド
4.プログレッシヴロックバンド
5.ヴィジュアル系ロックバンド
おおまかに分けるとこの5つの形態で成り立っている。
「こんなにあるなんて、とてもじゃないがひとつに決められない!」
あるいはそんなふうな優柔不断な青年どもが中にはいらっしゃるかもしれないが、そんなロッキンかつ仮性包茎なみなさんに向けてとっておきの解決法を伝授する。
ようするに、だ。
手っ取り早く売れたい輩は①の「ポップロックバンド」
世の中に対して怒りや不満を表明したい輩は②の「パンクロックバンド」
長髪姿でいることを好み、なおかつ悪魔や洋館やコスプレに興味がある輩は③の「ハードロック(ヘヴィメタル)バンド」
社会とか人生とか人間について四六時中苦悩している輩は④の「プログレッシヴロックバンド」
子供のころ、母親や姉や妹の化粧道具や服をこっそり拝借し女装した状態で町中をぶらついたことがある輩は⑤の「ヴィジュアル系ロックバンド」
……といったふうにテキトーに選べばいいわけで、じつはとってもカンタンなのだ。
後々、「本当はこんな音楽やりたくなかった」とかなんとか、細かい部分で問題が生じる可能性がないではないが、そんなもんは後付けでどうとでもなるので、安心してテキトーに選んで欲しい。
②バンドメンバーを募集する
10人ちかくの大家族の一員として生まれ育った輩であれば、家族の者を強引にメンバーに引き込んでしまえばいいので、ラクだが、少子化が叫ばれる昨今、それはごくごく稀なケースであろう。
なのでここは正統派の解決法として、ロック好きの幼馴染なり同級生なりを誘ってみるなり、あるいはロック雑誌のメンバー求人欄に投稿するなり、もしくは音楽系ウェブサイトやSNSなどで音楽的趣味嗜好が合いそうな輩にアクションをかけるなり、なんならダメもとで出会い系サイトに登録してみたらセフレ兼バンドメンバーを幸運にも捕まえることが出来た、なんてことだってあるかもしれず、とにかくなんでもいいからとっとと見つけて欲しいものである。
③メンバーの人数を決める
古今東西の有名ロックバンドを見ればわかるとおり、ロックバンドといえばヴォーカリスト、ギタリスト、ベーシスト、ドラムという4つのパートで構成されているのが基本的かつもっともポピュラーな形態である。
もちろん音楽的趣味嗜好により、キーボーディスト、ピアニスト、サンプラー奏者、シンセサイザー奏者、DJ、VJ、トランペッター、バイオリニスト、チェリスト、指揮者、フルート奏者、和太鼓奏者、ラッパー、ダンサー、ヒューマンビートボクサー、コーラス隊などを適宜加えるのもいいだろう。
とはいえ、結果的に100人以上ものメンバーが集まってしまい、メンバー間の人間関係を構築するうえでいろいろと面倒な部分が出てきて、バンドが売れたはいいが、金銭面の分配など、気づいたら厄介な問題が山積し苦悩したうえ、音楽がどうたらとか言っている場合ではなくなり、最終的に
「バンドなんて結成しなければ良かった」
なんつって海へ身投げする、なんていう悲惨な結末にもなりかねない。
以上のことを踏まえ、ここは些か不本意であるかもしれないがバンドメンバーに関してはやはり計4名、もしくは計5名あたりで無難に落ち着くのが一番かもしれない。
④各メンバーの担当パートを決める
とりあえず本講座を読んでいる輩は便宜上、「ヴォーカリスト担当」とさせていただく。
で、なんといってもロックバンドのヴォーカリストといえばバンドの顔である。つまり、いわば「花形」であるわけで、「音楽的才能、もしくはヴィジュアル面でバンドいち秀でてなければならぬ」と断言したい。
まあ、音楽的才能に関しては努力してどうにかなるというわけにはいかないだろうから、才能ゼロなうえヴィジュアル的にブサイクな輩は、せめてデビュー前までに美容整形手術を施すぐらいの「努力」を示してほしいものだ。
続いてギタリストだが、ズバリ言うと曲を作れる奴がいい。もちろん、自分が作曲しなくて済むからだ。
そのうえで、法律的な知識がなく金銭管理が杜撰な奴なら尚更よろしい。後々バンドが売れた場合、たとえギタリストが100パー曲を作ってたとしても、
「この曲のイントロ考えついたの、オレだったよな?」
とかなんとか言ってコトをアヤフヤにし、結果的にラクして莫大な印税収入を横取りすることができるのだから笑いが止まらないとはまさにこのことである。
で、ベーシストは地味でごちゃごちゃ言わぬおとなしい奴。あるいは、ベーシストだけメンバーを女にして「オシャレなバンド」をアピールするのもアリっちゃアリである。最後のドラムは「余ったデブ」で決まりだ。これでパーフェクトである。
⑤ひたすら練習に励む
美容整形手術を施しイケメンになった貴方、才能に溢れているが頭がちょっとアレなギタリスト、地味で余計なことを言わないベーシスト、ドラムのデブが集まり、ようやくロックバンドとしての形が定まった。
続いてなにをするのかといえば、ひたすらスタジオにこもって練習である。音源をリリースするにしても、ライブを開催するにしても、まずメンバー各自が楽器を演奏できなければ話にならないからだ。
まあ、さすがにいきなり曲作りをするというのは困難な作業になるだろうから、バンドスコアを買ってきて好きなバンドの曲をコピーするとか、とにかくひたすら練習あるのみであり、それこそ練習→バイト→センズリ→就寝→練習→センズリ→バイト→センズリ→就寝→センズリぐらいの勢いでもって日々を過ごして欲しいものである。このような苦難を乗り越えたその先に、輝かしい栄光の未来が待っているのだ。
⑥そして、デビューへ
ひたすら練習をこなし、とりあえず人前で聴かせることが出来るレベルの演奏技術を身に付け、オリジナルの曲もある程度出来た。ついにデビューである。あとはよく知らないので、とりあえずテキトーに頑張って欲しい。健闘を祈る。