スポーツはほぼ全般的に好きである。
野球(ここ最近はまったく観てないが)、サッカー(日本代表戦と日本人選手が所属している海外チームの試合をちらほら観る程度)、格闘技(昔は『PRIDE』『K‐1』を現地&テレビ観戦、現在は『RIZIN』を主にテレビ観戦)、あと厳密にいえばスポーツとは言えないだろうが昔はプロレスも好きでよく観ていたし(現地観戦も数回あり)、オリンピックや世界陸上などがテレビで中継されていればついついチャンネルを合わせてしまうぐらい好きだ。
まあ、上で触れたとおり、どのスポーツに関してもマニアってほど詳しくはない。あくまでもニワカに毛が生えた程度の知識しかない私である。
そんな中でももっとも観戦歴が長いスポーツといえばボクシングである。
古くは辰吉丈一郎VSシリモンコン・ナコントンパークビュー、畑山隆則VS坂本博之、比較的最近のでは八重樫東VSローマン・ゴンサレス、さらに昨年9月に行われ結果的に長谷川穂積の5年ぶりの王座返り咲き&引退試合となったVSウーゴ・ルイス戦など、これらの数々の激闘はいまでも忘れられないし、思い返えば自然と胸が熱くなってしまう。
鬼塚勝也、戸高秀樹、西岡利晃といった選手たちも忘れ難き名チャンプとして私の脳裏に深々と刻まれているし、つい先日の大晦日の試合では惜しくもリベンジは果たせなかったものの内山高志選手の試合にも毎度のごとく熱狂させられた。
そういえば亀なんとかさんという人もたしかいたような気がするがあいにく記憶が定かではない。きっと気のせいだろう。
……と、ここまで書くとなんのかんので詳しいじゃないかと思われるかもしれないが、全然詳しくない。
たとえば海外の現役強豪選手はどうか。
さすがにパッキャオぐらいは知っている。
あとはパッキャオとか、それからパッキャオとか、そしてそう、パッキャオも知っている。
というか大体からしてパッキャオの試合自体まともに観たことがない。
さらに言うなら、いま現在、日本なんたら級の王座に君臨している選手だとか、あるいは将来世界なんたら級のチャンピオンになることが有力視されている若手のホープだとかも自慢じゃないがほぼ知らない。
もちろんボクシングのルールはちゃんと知っている。
ヘビー級だのフライ級だのバンタム級だの階級別に分かれて王座を争う競技であることも、WBAだのWBCだの団体がいくつかあるのも知っている。ただ選手に関しては、民放テレビ各局のゴールデンタイムにて試合が放送されたことのある日本人選手のことしかほぼ知らない。我ながらあまりのにわかっぷりに謙遜してしまうほどだ。
とはいえ私はボクシングが大好きである。こんなこと言ってもまるで説得力がないのは重々承知だが嘘ではない。
というわけで前置きが長くなってしまったが、はじめてボクシングを生観戦してきた。
昨年の12月30日、有明コロシアムにて開催された「ボクシングフェス2016」である。
私のこの日のお目当ては、なんといってもメインイベントとして開催される“モンスター”井上尚弥選手と河野公平選手による世界スーパーフライ級タイトルマッチである。
セミファイナルではライトフライ級世界王者・八重樫東選手の防衛戦が控えており、こちらも楽しみだ。またロンドン五輪の金メダリスト村田諒太選手の世界前哨戦や、おなじくロンドン五輪の銀メダリスト清水聡選手の試合も行われる。「ボクシングフェス」という名に恥じぬじつに豪華なラインナップである。
私が購入したのはスタンドB席で値段は1万円。一番高価なのでSRS席5万円ってのがあったが、さすがにそこまで払うほどのガッツや情熱は私にはない。にわかボクシング好きとして相応な席であろう。
さて、当日は17時過ぎに有明コロシアムに到着した。
そもそもこの日の「ボクシングフェス」の開場時間は14時であり、予定されている終了時刻は21時であった。最初の方は、マニア以外にはあまり知られていない選手らによる前座の試合が行われるが、さすがによく知らない選手の試合込みで7時間もぶっとおしで観るのはきつい。
「まあ、てきとーな時間に行って途中から観ればいいかな」
なんて家でダラダラしているうちにこんな時間になってしまった(繰り返しになるが、あくまでもにわかなボクシング好きということで何卒ご容赦願いたい)。
というわけでチケットを案内係に確認してもらっていざ場内に入場。
ちなみに有明コロシアムに来たのもはじめてである。
なので、複数ある入り口のどこから入っていったら自分の席に到着するのか勝手がわからず、しばらく会場内をウロウロしてしまった。
場内では誰が戦っているかわからなかったが試合が行われている真っ最中だった。とくに確認するでもなくウロウロしていると場内が軽くざわつき、直後、ゴングの音が鳴り響いた。
リングが遠めにしか見えないのでよくわからなかったが、オーロラビジョンを確認すると清水聡選手が勝ち名乗りを受けていた。
ウロウロしているうちに試合を見過ごしてしまったじゃないか。
よくわからんが、とりあえず清水選手、おめでとう!
で、その後、ようやく自分の席に到着。さすがに安い席だけあってリングが遠く感じるがせこい自分が悪いので仕方がない。席に座りつつ次に行われる村田諒太選手の試合を待つことにする。
そして18時、村田選手の試合が行われる旨を伝えるアナウンスが響き渡る。
いよいよ選手入場である。オーロラビジョンには煽りVが流されている。
もちろんこの試合の主役は村田選手である。なので村田選手をメインとする内容の煽りVとなっていた。それは一向にかまわない。
しかしながら、対戦相手の映像が一切出てこなかったのはいかがなものか。
この日の対戦相手である外国人選手のことなんて、私のようなにわかボクシング好きはよく知らないんだから、せめてこれまでの試合をまとめた映像とか、「ムラタ、オマエハモウ死ンデイル」とかなんとかいったコメント等も織り交ぜたりなんかして、試合に向けた緊張感をもっと煽るべきではないか。
ちなみに次の八重樫選手の試合での煽りVもやはり同様の出来であったわけで(※さすがに井上選手と河野選手の煽りVは、若干井上選手よりの内容であったものの、ちゃんと河野選手の映像もある程度の時間が割り当てられていた)、これじゃあ完全に村田選手、八重樫選手のPVである。
もっともボクシングの場合、煽りVの本家本元であるPRIDE~RIZINのように、いろんな選手が各大会に継続的に参戦してドラマを作り上げていくというスタイルが確立されている競技じゃないので、難しい部分があるのかもしれないが、要改善すべき点であろう。
さて、試合だがわずか3ラウンドで雌雄が決した。村田選手の見事なKO勝ちであった。
というか、全体的にとくに盛り上がりもせず対戦相手の外国人選手がスリップダウンしたかと思ったらいつのまにかふつうのダウンを取られてて、なんだかグダグダな感じで試合が終わってしまった、というのが正直な感想である。
ちなみにこの日はテレビの生中継が入っている都合で、次の八重樫選手の試合は19時開始、メインである井上選手と河野選手の試合は20時開始とあらかじめアナウンスされていた。
村田選手の試合が早くに終わってしまったので次の八重樫選手の試合開始まで30分ぐらい待たねばならない。トイレが近い私にとっては好都合だったが、若干間延びしてしまった感があったのも事実である。まあ、ここらへんは仕方がないんでしょうけど。
19時、八重樫選手の試合開始。
中盤までは八重樫選手も対戦相手も明確なクリーンヒットはなく、6ラウンドぐらいから八重樫選手のパンチがこつこつ当たりだしてそれなりに場内が盛り上がったものの、その後も緊迫感あふれる一進一退の攻防が繰り広げられるといった感もなかった。
結局、試合は八重樫選手が最終12ラウンドTKOで勝利した。観客席の一角を陣取っていた八重樫選手の応援団だけがやたらと盛り上がっていた印象が強い。
うーん。ここまでは「生でボクシングを観てる!」という感慨は正直一切ない。
目の肥えたマニアが観たらじゅうぶん見応えのある内容だったのかもしれない。じっさい、帰ってきてネットで調べたらそういった声もけっこうあった。
にわかだからこそもう少し欲張って前目の席を取るべきだったかもしれん。もう遅いけど。
そして20時、ついに井上選手VS河野選手の試合だ。八重樫選手の試合が最終ラウンドまでもつれたおかげですぐに試合が開始されることになった。
試合開始直前、近くの席にいるカップルらしき男女が
男「“カワノ”? “カワノ”でいいの?」
女「うん、“カワノ”っしょ?」
男「強いの? “カワノ”って?」
女「“カワノ”って亀田に勝った人でしょ?」
男「あー、あいつかー!」
などと会話している声が聞こえてきた。
「“コウノ“だよ!!」
思わず言いたくなったが、そんなことはすぐにどうでもよくなった。
なにしろ井上選手の動きがものすごい。
パンチのキレ、スピード、さらに河野選手への攻撃がヒットした際、場内に鈍く響き渡る音からまざまざと感じ取れるすさまじいパンチ力、しなやかなフットワーク……素人目にも河野選手との実力の差はあきらかに思えた。
井上選手優勢のまま迎えた5ラウンド、河野選手が意地の攻撃を繰り出し井上選手の動きが止まる場面があったが、観ていてもここから河野選手が逆転できそうな気配は正直微塵も感じられない。
「モノが違う」
単純にそう思った。
そして運命の6ラウンド、井上選手が2度のダウンを奪いTKO勝利。
この試合に関しては会場も終始大盛り上がりだった。
「モンスターじゃ! マジもんのモンスターじゃああああ!!!」
いやあ、いいもん観ることができた。
井上選手の次の試合は、ボクシングの本場ラスベガスで行われる予定だという。
嘘か真か私には知る由もないが、ぜひ実現して欲しい。きっと本場のファンも仰天する素晴らしい試合を見せてくれるに違いない。
「生でボクシングを観てる!」
最後の最後、そんな万感の思いにようやっと浸ることが出来た。