「もしもし?」
「あ、もしもし。こんにちは」
「こんにちは。で、今日はどうしたの?」
「あの、じつは…最近、寝不足で困ってるんです」
「へぇ~そうなんだ! そりゃ愉快だねえ!」
「いや、あの、すいません。ここ、べつに笑うとこじゃないんで」
「なぁ~んだ、つまんないの。や、じつをいうと昨日お酒飲み過ぎちゃって2日酔いなの、ボク。それで今日、ちょっとテンションがおかしいのかもしれないね。気ぃ悪くしたらごめんなさいね。で、なんだっけ? 眠れないの? ほぉ~そりゃ大変だね。で、いつごろから?」
「今の家に引っ越してきてからなんで、そうですね……かれこれ一ヶ月ぐらいですかね」
「なに? じゃあ、以前住んでいたおうちのときはべつに問題はなかったの? 眠れてたの?」
「ハイ、ここに越してきてから急に」
「ちなみにお仕事はなにやってるの?」
「警備員の仕事を夜間でやってます」
「となると、あれかい? 家には朝帰ってきて、それで寝るわけ?」
「ですね」
「フーン、なるほどねぇ。そうすると、やっぱり隣近所に住んでる住民の生活音がうるさいの? 隣の奥さんがかけてる掃除機の音とか。それで眠れないの?」
「いや、べつにそんなことないですね。むしろお隣の奥さんは近隣に気を遣いすぎるほどの人なんで、掃除機使わないでわざわざほうきで掃除してるくらいですし。生活音はほとんどしないんじゃないですかねえ」
「あっ、そう。じゃあアレだ。クルマの往来が激しいにぎやかな場所に住んでるんでしょ? それでやかましくて眠れないわけだ?」
「いや、それもないですね。むしろ都内でも珍しいほどの閑静な住宅街っていう感じで。ま、一時間に3台通ればいいほうですねえ。不動産屋さんなんかも閑静な優良地帯としてここらの建物宣伝してるくらいですし」
「なにそれ? じゃあ、外で子供が遊んでいる音がうるさいとかそういうわけでもないの?」
「ええ、むしろ外でも遊ばないような物静かなお子さんばかりの町っていうか」
「ていうと、なにアナタ? 少しも眠れてないわけ?」
「まあ、……2時間くらいですかね」
「へぇ~! そうなんだあ! 2時間ねえ! そりゃいいや!」
「いや、あの、すいません。いきなりご飯食べられても困るんで」
「うん、あのね、よく考えたらアタシ、昨日の晩からなんにも食べてないんですよ。おなか減っちゃって。気ぃ悪くしたらごめんなさいね。で、えーっと、おたくはその、お医者さんなんかには相談してみたの?」
「ええ、精神科に行きました。でも、とくに精神的に異常があるわけでもないって言われて。ま、じっさい、仕事も順調だし、可愛い彼女もいるし、普段の生活にはホント満足してるんで。で、それなら睡眠薬出すって言われたんですけど、ボク、じつは睡眠薬アレルギーだから飲めないんですよ。それでホント、困っちゃって…」
「なるほどね。そりゃ困ったねえ。うん。じゃ、ちょっといま、なにかいい案があるかもしれないから、スタジオにいるゲストの方に聞いてみますからね。黒沢さん、なにかいい案ありますか?」
「うん! あのね、ボクもたまにやってるんだけどネ! 帰ったらセンズリ1時間くらいこくとかどうかナ?! 疲れてよく眠れるしいいと思うヨ! うん!」
「なるほどねぇ~。お宅はどうですか? センズリは? けっこうこくほう? こく場合、一回何分くらいこく?」
「ま、頑張って15分くらいですかね。でも、最近はそんな元気もないですね。正直」
「ま、たしかに無理にやって体壊したら元も子もないからねえ。なるほどなるほど。弱ったねえそれは。近隣の住民がうるさいわけでもない。クルマの往来が激しいわけでもない。はたまた、精神的にも問題ないっていうわけだしねえ」
「ええ、ほんとに、なんていうか、こう、とにかくまぶしくって眠れないっていうか」
「ん?」
「や、だから太陽が出てるじゃないですか。朝だから。それで、なんつうんですか? その、部屋に直射日光がガンガンくるわけで、もう、どうにも寝付こうにも寝付けないんですよね、これが」
「えっ? ちょっと待って! お宅ん家ってひょっとして……越してきてからカーテンつけてないの…?」
「つけてないですね」
「つけてないってああた、…つけりゃいいじゃない」
「…ですね」
「解決した?」
「どうもありがとうございました」
「ハイハイどうもどうも~失礼しま~す」
「また来週!」