先日、コンビニで買い物をしていたら一冊の本が目に留まった。
『決定版! 悪用禁止! 悪知恵』なるタイトルの本だ。
表紙の下のほうには
「金儲け、恋愛、生活で使える禁断の裏テク&激ヤバ情報大公開!!!」
という刺激的なコピーが躍っている。
こんな本を誰もが気軽に立ち寄れるコンビニなんかで売っていいのだろうか。
なにしろ「悪用禁止!」「激ヤバ情報大公開!!!」である。手にした人が本の内容に目を通し、結果的に犯罪を助長するようなことにでもなったら誰が責任を取るというのか。
出版元は宝島社、著者名は「日本博学研究所」とある。
日本博学研究所なんて訊いたことがない。ひょっとしたら日本を犯罪まみれの国にしようとたくらむ悪の秘密結社なのではないか。
おそろしい。そんな未来がやってくるなんて、絶対に防がねばならないことだ。
興味本位でつい買ってしまった。
家に帰り、早速、読んでみた。
「駐車違反の切符を切られても罰金を払わずにすむ方法」
だの、
「故意に作った火傷を使ってお金を儲けるすごいやり方」
だの、やはり事前に危惧していたとおり、犯罪行為すれすれのさまざまな「悪知恵」「激ヤバ情報」が掲載されていた。
さらには
「窓ガラスを、音を立てずに静かに割る方法」
やら、
「飲酒運転の検査でもアルコールを検出されない方法」
なんていう「悪知恵」「激ヤバ情報」までもが載っているのではないか。
しかもいずれの項目の文章も簡潔かつ明瞭でとても読みやすい。もちろん読みやすいということは、「悪用」されるおそれがひじょうに高いということでもある。じつにおそろしいことだ。
さらに本を読み進めていくと以下のような「悪知恵」「激ヤバ情報」が目に留まった。
「簡単にTwitterのフォロワーを増やす方法」
いったいどんな方法なのか。本文を一部抜粋しよう。
まずは、自分からたくさんの人のフォロワーになるべきだろう。芸能人や作家など、自分の興味のあるジャンルに登録されている著名人を探し、その人のフォロワー情報をチェックしたら、あとは手当たり次第にフォローしていくのだ。
趣味が合う人であれば、意外にフォローし返してくれる確率は高くなる。
俺はTwitterはやってないのでよくわからんが、これってやってる人なら誰もが知っている常識中の常識なのではないか。というかそれ以前に、これのどこが「悪知恵」「激ヤバ情報」なのだろうか。さっぱりわからない。
かと思えば、こんな「悪知恵」「激ヤバ情報」も掲載されていた。タイトルがズバリこうだ。
「ミカンの白い薄皮をきれいさっぱり取る方法」
こちらも本文の一部を抜粋しよう。
ミカンを丸ごと熱湯に入れて、フタをして5分ほど待つ。取り出して冷水に浸せば、アッと驚き、アタマから剥くと、キレイさっぱり白い皮は取れてしまう。
たしかにミカンのあの白い薄皮の部分を美味いと感じた記憶はない。むしろ個人的にはなくてもいいと思っているぐらいであり、ひじょうに有益な情報であると言えよう。
とはいえ、これのいったいどこが「悪知恵」「激ヤバ情報」なのか。単なる主婦の豆知識のようにも思えるし、第一、「悪用禁止!」もなにも「悪用」しようがないではないか。
では以下の「悪知恵」「激ヤバ情報」はどうか。やはり本文の一部抜粋と合わせて紹介しよう。
「活躍するスポーツ選手に姉さん女房が多い理由」
スポーツ選手は体が資本となるため、家庭や食事の面でサポートしてくれる年上の女性の方が本業に専念できる環境が作られる。
ただ、スポーツ選手は早くに結婚することが多く、若い選手は年上に狙われやすい。
んなもん、わざわざ説明されんでも大体想像つくわ。もはや「悪知恵」でも「激ヤバ情報」でもなんでもないではないか。
「車の盗難事件から愛車を守る方法」
これもやはり「悪知恵」や「激ヤバ情報」では全然ない気がするものの、じつに気になる情報だ。本文にはこうある。
車の盗難の手口でもっとも多いのは、ドライバーがキーをかけたまま車を離れてしまったことによる被害だ。
ちょっとの時間ならキーを差したまま、という人もいるだろうが、犯人はプロ。わずかなチャンスを狙っているので、必ずキーを抜いてドアをロックしておくことが大切だ。
あたりまえじゃないか。読者を馬鹿にしてんのかと言いたくなろうというものだ。
ほかにも
「働きアリの2割は仕事をさぼっている」
だの
「トゲが刺さったときの簡単な抜き方」
だの
「日焼け後のしみ・そばかすを抑える方法」
だのといった「豆知識」「雑学」が本書全体の8割近くを占めており、ほとんど「悪知恵」「激ヤバ情報」とは程遠いと言える内容であった。
ちなみに
「目黒、世田谷の自動車教習所に通えば芸能人に会える」
という「悪知恵」「激ヤバ情報」……というか「豆知識」も掲載されているが、これはただしい。
昔、目黒に住んでいた友人が最寄りの教習所に通っていたある日、教習中のロンブーの淳を見かけたという話を訊いたことがあるからだ。
一応ことわっておくが、これらの情報を読んでもくれぐれも悪用はしないようにしていただきたいものだ。
とくに「ミカンの白い薄皮をきれいさっぱり取る方法」は絶対に悪用しないでいただきたい。どう悪用できるのかは俺にはよくわかりませんが。