【第30回】はじめて○○へ行ってみた「東京ドームでボクシング観戦」(観た興行→『THE DAY』)

今年の3月6日、井上尚弥と中谷潤人が同席した会見が都内で行われ、両者の対戦が正式に実現することが発表された。それを確認した直後、私は生観戦するためのチケットの抽選に申し込むことを決めた。

両者のこれまでの実績を鑑みれば日本人ボクサー同士の対決史上、最大のメガファイトとなることは間違いない。というか、世界的に見てもパウンドフォーパウンド10位以内にランクインしているボクサー同士によるビッグマッチである。ニワカに毛が生えた程度の知識しかないボクシングファンの私でもこの試合が実現することがいかにとんでもないことかは充分すぎるほど理解しているつもりだ。

なにしろボクシングの歴史に燦然と刻まれるであろう対決が生で観られるのだ。このチャンスをみすみす逃してなるものか。

おそらくチケットは手に入らない可能性が高い。とはいえ申し込みもせず「やっぱ行っとけば良かった…」と後悔はしたくない。

チケットはいちばん安い2階指定席にした。11000円。貧民の私にとってはこれでも充分大金だ。まあ、たぶん当たらないだろうが。

と思ってたら、なんと当たってしまった。

 

やったぜ!

歓喜の舞を踊った、と言いたいところだが、じつは懸念していることが一点あった。

東京ドームだ。

猪木の引退試合、それからポール・マッカートニーの来日公演。いずれも安い席で観た。いずれも肉眼では舞台上の人間は豆粒状であり、ほとんど視認できなかった。

さらに昨年のオアシス再結成公演だ。こちらはアリーナとまではいかなかったがSS席の9列目である。悪い席ではなかった。なかったはずだ。が、やっぱり豆だった。

それでようやく私は理解した。

「東京ドームはとんでもなくデカい」

まあ、音楽はそもそも音を聴きに行ってるのだからまだ良い(ポール・マッカートニーのときは音も酷かったが)。

が、今回はボクシングである。ボクシングは選手同士の細かい動き・攻防がなによりも重要な競技であるのは言うまでもない。

おそらく、というか確実にそれを観ることが出来ない。肉眼では絶対に無理だ。つまり、必然的に場内のヴィジョンと終始にらめっこするかたちになる。はたしてそんなんで本当に楽しめるのか。

とはいえ、当たったんだ。グダグダ言ってもどうしようもないじゃないか。

というわけで行ってきた。

 

「LIVE FOREVER」という文字がどうしたってオアシスの再結成公演を思い出させる。ああ、もうあれから半年近くも経ったのか…。

さて、肝心の席からの眺めだ。こんな感じである。

 

うん。悪くない。というか、なかなか良いんじゃないか。2階最後列の2列前の席だと考えれば良いほうだ。そう思われた。

が、席に座った瞬間、「これはしんどいかも…」と思った。かなり縮こまった姿勢で座っていても隣客の身体が当たる。もちろん、足だって伸ばせない。窮屈きわまりない。

そうこうしているうちにこの日のオープニングマッチである富岡浩介vs田中将吾の試合が開始。

で、いざ試合がはじまってみるとこれがどうだ。豆である。まあ、わかっていた。が、にらめっこするはずの場内ヴィジョンにしても思っていたより視認しづらい。これは誤算だった。

試合は10ラウンド判定ドローで決着。

2試合目、ユン・ドクノvs森脇唯人も10ラウンド判定まで行き結果、森脇勝利。

いずれもダウンシーンなしのフルラウンド決着。この時点で正直、疲れてしまった。小便もしたかったので一旦通路に戻ることにする。

トイレは長蛇の列だった。これもわかりきっていたことだが、それにしても疲れる。次の阿部麗也vs下町俊貴は申し訳ないが見送ることにした。

喫煙所で一服。グッタリしながら2本目のタバコを吸い終え通路のモニターで確認したら試合の真っ最中だった。再び喫煙所に戻りまたタバコに火をつける。かなりのんびりめに吸い、さらにスマホの画面を眺めたりダラダラする。

「さ、もう終わったかな」

通路に戻りモニターを確認。

「まだやってるのか…」

小便をしにトイレに再び並ぶ。トイレを出てモニターを見るとようやく試合が終わっていた。

10ラウンド判定で下町勝利。どうやらこの試合もダウンシーンはなかったっぽい。

席に戻り4試合目の田中空vs佐々木尽。さあ、ようやく知ってる選手が出てくるぞ。佐々木尽だ。ハードパンチャーとして知られ、昨年世界タイトルマッチに挑み敗れてしまったが、まだ若くこれからが期待できる選手だ。しかも相手の田中空もこれまで5戦して5KO勝利。KO決着必至の凄まじいぶん殴りあいになるに違いない。

試合終了。10ラウンド判定で佐々木の勝利。両者ダウンシーンなし。

さあ、次は井上拓真と井岡だ。バンタム級チャンピオンの井上に階級を上げてきたレジェンド井岡が挑む注目の一戦である。いずれも屈指のテクニックを持っており、かつまた、パワーレスな選手として知られている。断言してもいい。KO決着は絶対にない!

ところが、なんと2ラウンド目に井上のパンチで井岡ダウン。続く3ラウンド目、またしても井岡ダウン。

「うおおおお!」

さすがに興奮した。まさかまさかの展開だ。

が、その後も井上が終始優勢に試合を進めたもののあと一押しが足りず。結果、12ラウンド判定で井上の勝ち。

ここまで全試合判定決着。マジで疲れた。クタクタだ。次の武居はあきらかに調整試合だろう。いいか、観なくて。

「よっしゃ、しょんべんだ!」

列に並んでたら待ちきれなくなったジジイが階段で小便してた。少し進んだところに目が死んでる女の係員がいたので「そこの階段で小便してる人いますよ!」と教えてあげたが一切反応がなく、よく見たら銅像かと思ったらやっぱり目が死んでる女の係員だった。

喫煙所でタバコ吸ってまた小便して席に戻る。第6試合の武居由樹vsワン・デカンはすでに終盤に入っていた。8ラウンド判定で武居の勝利。ブーイングが聞こえる。そんなにひどい内容だったのか。

そして遂にこのときが来た。

井上尚弥vs中谷潤人。

32戦全勝同士、世紀の一戦がはじまった。

なにしろ緊張感がエゲツない。互いに相手にパンチをヒットさせているように見えるし、互いに相手のパンチのうまくかわしているようにも見える。こちらの胃がキリキリしてくるような凄まじい攻防だ。おお、「やるなお前」「アンタもな」みたく、ふたりとも笑いあってるぞ。かなり見えづらいことに変わりはないが、もはやどうでもいい。この場にいられるだけで満足だ。

12ラウンドの死闘が終わった。

勝者井上尚弥。

やはりモンスターは強かった。中谷もよく頑張った。

しかし、7試合すべて判定決着の8時間近い長丁場、おまけに席が窮屈でヴィジョンですら観えづらいというのが重なり、クタクタに疲れ果ててしまった。

「東京ドームの安い席でボクシングは観るもんじゃない」

身も蓋もない結論になってしまったが、正直な感想だ。いやしかし、観に行って良かった。これまた正直な感想である。