どうやらニコラス・ケイジが相当おもしろいことになっているらしい。
いや、訂正しよう。
ニコラスは最初からずっとおもしろかった。
では、ニコラスのおもしろさとはなにか。
誰もがご存じのはずだ。ここで私がくどくどと説明するまでもないだろう。
まああえて言うならこうだ。
「フツーだったらイケメンの俳優がやるようなかっちょいい役を見た目がアレなくせになぜか臆面もなく“な? 俺ってカッケーだろ?”と言わんばかりに堂々と演ずる」
これこそがニコラスをニコラスたらしめている唯一無二の魅力でありニコラスならではの「おもしろさ」である。
先日、『ウィリーズ・ワンダーランド』を観た。
クルマの修理代の代わりに田舎の寂れた遊園地の清掃を引き受けた主人公ニコラス。しかしながらじつは遊園地には悪霊が取り憑いた機械のぬいぐるみどもがわんさかおりニコラスをぶっ殺そうと襲いかかってくる。ところがニコラスはどこ吹く風といった調子で清掃作業をこなしながら淡々とぬいぐるみどもをぶっ飛ばしていく。
それだけ。
はっきり言ってたいしたヤマもオチもない映画である。しかし、これがすこぶる楽しい映画だった。
この映画のニコラスは斬新で新鮮味に溢れていてとにかくじつに素晴らしい。
まず、ニコラスが劇中、びた一文セリフを喋らない。しかもものすごく強い。そしてなぜニコラスが強いのか、いっさいの説明もない。というか、そもそもニコラスの役名すら劇中あきらかにされない。さらには自身がぶっ飛ばしたぬいぐるみどもをゴミ袋に入れてしっかりまとめるなど完璧なお掃除っぷりであり、もしやプロの始末屋か、と思うものの、もちろんそんなささやかな疑問にもいっさいこの映画は答えてくれない。とにかくただただニコラスが黙々と掃除してついでにぬいぐるみぶっ飛ばして途中ピンボールゲームに興じながらエナドリをゴクゴク飲み干すという謎の休憩ルーティンを挟みつつ最終的に小汚い遊園地をピッカピカにする。
マジでそれだけ。
わけがわからなさすぎて最高におもしろいよ。
仮に本作の主演がたとえばブラピやトム・クルーズだったら「なんだかよくわからんがなんかカッケー映画」に仕上がっただろう。ウィル・フェレルやベン・スティラーが主演だったら「ちょっと風変わりなコメディ映画」になったに違いない。ニコラスが演じているからこそえも言われぬシュールなおかしみがふつふつと湧き上がってくる特異な作品に仕上がっているのだ。
この監督はニコラスのただしい取り扱い方をわかってらっしゃる有能な人物に違いない。
そして、ニコラス。本作で新境地を開いたと言っていいだろう。
数年前から噂されていたニコラスがニコラス本人を演じるというわけのわからぬ映画もようやく今年全米で公開されるらしい。
ニコラスも腹を括ったのだろう。いや、もしくはヤケになったのか。
ん? ……えっと、大丈夫ニコラス……?
なんだか少し心配になってしまったが、きっとこれからニコラスは第2の全盛期を迎えるはずだと私は信じている。あと、ついネタバレ記事を書いてしまったが、ネタバレしても最高に楽しい映画であることは私が保証するので安心してご鑑賞していただきたい。