『クロールー凶暴領域ー』の主人公は水泳をやっている若い女である。オリンピックを目指せるほどの実力の持ち主なのか、はたまた市の大会ぐらいだったらなんとか優勝できるレベルの人物なのか、そういう細かい説明はないのでわからない。とにかく、幼いころからコーチ役を買って出た父親にしごかれてきたが、父が娘の指導に熱中したがために両親の関係がこじれ一家は離散してしまう。そういう事情があって主人公の女、つまり、娘と父の関係もなんだかこじれてしまい、いまは少し距離を置いている。
そんなある日、ハリケーンがやってきて、街に尋常ではない雨風が吹きすさぶ。人々が避難するため街を離れていくなか、突然、姉から電話がかかってくる。
「パパと連絡がつかないの。アンタ、パパがどこにいるか知ってる?」
ためしにスマホで父に連絡を取ってみようとするが、たしかに呼び出し音は鳴るものの一向に出やしない。
「チッ。出会い系アプリで知り合った女とよろしくやってて電話に出れねえってか。ふざけやがって、クソ親父め」
と女が考えたのかはわからないが、とにかく父を探しに実家へ向かう。
ちなみに母は新しい旦那と異国で生活をしており、姉は家庭持ちで少し離れた街にいる。主人公の女、そして父は、ハリケーンが直撃しているこの街で、別々にひとりで生活をしている。
で、実家に行って隅々探してみたところ、ようやく父を発見する。
地下室にいた。
しかも、血まみれで意識を失っているではないか。
出会い系の女と調子に乗ってよろしくやろうとしたら少林寺拳法でお仕置きされてしまったのであろうか。
もちろん、そうではなかった。
ワニにやられたのである。
ハリケーンの影響で川が氾濫し、多数のワニが市中に流れ着いてしまったのだ。
つまり、リアルワニワニパニックなのである。
父と娘、大ピーンチ。
なのである。
ハリケーンを描いたパニック映画もワニが襲いかかってくるパニック映画も巷にわんさかあるが、ハリケーン+ワニのコンボとなると、これはなかなかに珍しいのではなかろうか。少なくとも私はこんなシチュエーションの代物にはこれまでお目にかかったことはなかった。
で、これはとんでもない方向に話が向かっていくのでは、とワクワクしながら観た。
が、どうも想像していたのとは違った。CGワニ君たちはリアルで安っぽくないし、父娘の絆の再生という真面目っぽいテーマもある。
これではB級馬鹿パニック作の放送をお家芸としている『午後のロードショー』のスタッフも躊躇するであろう。つまり、良くも悪くもわりとまともな映画である。
で、本作のタイトルをいま一度ご確認していただきたい。
そう、『クロールー凶暴領域ー』である。主人公の女は水泳を特技としているのである。あとは説明しなくてもおわかりだろう。
というわけで、そういう内容の映画である。
とはいえ、じつのところ水泳はそこまでフィーチャーされておらず、なんならべつに水泳じゃなくても良かったんじゃねえの、という気がしないでもなかった。
もし続編を製作するのならばプロボクサーを目指す青年を主人公にするのもアリなのではないか。相手もワニではなく巨大亀なんかがいいかもしれない。
ある日、街にハリケーンが発生する。避難しようとしたら、突然、次男だか三男だかから電話がかかってくる。
「オヤジと連絡つかへんねん。にいちゃん、オヤジどこにおるか知っとるか?」
で、実家にてオヤジ発見。血まみれなうえ、どうやら意識を失っている模様。
いやいやいや。いくらでけえからってオヤジが亀なんかにやられるかっつーの。オレのオヤジは世界一のオヤジなんや。つーか、巨大亀どもなんぞワシのボクシングでしばき倒してやるわ。どんなもんじゃーい。
みたいな内容だったら『午後ロー』のスタッフも大喜びで放送してくれるだろう。
んなもん誰が観るんだっていう突っ込みが入るかもしれないが大丈夫だ。俺が観る。