『アップグレード』を観てたら、全然違う内容だが、なんとなく『ターミネーター』や『ブレードランナー』に近いテイストを感じた。
ようするに、どんよりとしていて暗い。そして、根暗な私は暗いSF映画が大好物であり、ひさしぶりにばっちり好みな映画に出会えた気分になった。いやあ、いいねえ。
舞台は近未来。警察はドローンを使って犯罪現場を追う。AIによる自動運転カーが完全に実用化された社会であり、もう人間がわざわざ運転する必要はない。あと、テーブルがタッチパネル式になっていて、いろいろと便利なことが出来ちゃったりもする。
私は最新のメカ事情にまったくと言っていいほど疎い人間なのでよくわからんが、どれも近い将来、実現しそうな感じである。なんだかリアリティがあるなあ、と感心した。
で、ある日の夜、AIに運転を任せ車内で主人公のおっさんと嫁さんがイチャイチャしだす。ところが突然、AIが言うこと聞かなくなり事故を起こす。めちゃくちゃになった事故車からなんとか脱出を試みようとするものの、謎の悪党どもがいきなり現れ、なんか手に埋め込まれたハイテク拳銃みたいなヤツで首を撃たれ身動きが取れなくなり、挙句、嫁さんがぶっ殺される。
その後、警察がやってきて主人公はかろうじて助かったものの全身麻痺の障碍者になってしまう。嫁を死に追いやった悪党どもを見つけ出しに行きたいところだが、車椅子生活の身ではどうにもならない。
これがジェイソン・.ステイサムとかだったら、たぶん気合とか筋肉とかでどうにかしちゃうんだろうが、あいにくこの映画の主人公は気合や筋肉でなんでも解決してしまう超人ではない。
では、どうするか。
メカである。
体内にAIチップを埋め込み身体の機能を取り戻すのだ。
「よっしゃ! これでマッチングアプリで女と出会ってあんなことやこんなことも出来るぜ! めでたしめでたし!」
とはならない。
冒頭で書いたとおり本作はコメディ映画ではない。わりとハードで暗いSF映画である。
体内のAIは言葉も喋れる。たとえばこんな具合だ。
「私はステム。君の身体を動かしている」
ステムの声は脊髄を伝って主人公だけに聞こえるようになっている。黙ってほしいと言えばひな壇に呼ばれたもののおもしろいセリフが一切出てこない芸人のように無口になるし、悪党どもを見つけ出しピンチになれば全盛期の永田さんばりの格闘術でもっていとも簡単に成敗してくれる。
じつに頼りになる奴だ。だが、いかんせん愛嬌がない。
主人公が酒を飲んでるとき、ステムは不意にこう言う。
「酒が脳の信号を邪魔してまともに歩けなくなる。なぜ人間は不具合を求めるのか理解出来ない」
舞浜で遊んでたらこう言うのであろうか。
「そのネズミの化け物の中身はただの人間だ。なぜ人間は不具合を求めるのか理解出来ない」
知ってるよ。
ごもっともですと言うしかないが、でもなんか嫌だなあ。
愛嬌があって冗談も通じて、酒もネズミの化け物も見て見ぬフリをしてくれる。そんなAIが私は欲しい。
まあ、そんなことはどうでもいいが、なにしろ終始どんよりとしていて暗いのが個人的にはたまらなくツボだし、テンポもいいし、どんでん返しなオチもばっちり好みだった。
「『ターミネーター2』もいいけど、最高傑作はやっぱ一作目でしょ」
という人なら、たぶんより楽しめるはずである。とりあえず主人公が親指を立てながら溶鉱炉に沈んでいってハイおしまい、とかじゃないので安心してご覧あれと言っておく。