お刺身からのスカイラブハリケーン

性に本格的に目覚めた日のことは鮮明に覚えている。

中一のときだ。友達数人と下校していたら、急に仲間内でヒソヒソ話がはじまった。

なぜかみんなニヤニヤしている。そのまま帰宅するはずだったが、急遽その中のひとりの友達宅へこれからお邪魔することになった。

「まあ、おまえも来てみろよ。すごいから」

なにがなんだかわからぬまま、私はとりあえずみんなについていくことにした。

数分後、友人宅に到着。家の中には誰もいなかった。

「よし、大丈夫だな。じゃあ観るか」

一本のビデオテープが再生された。

エロビデオであった。

はじめて観るエロビデオに私は衝撃を受けた。しかもそのエロビデオの内容が「お刺身を使用したプレイ」であったため、私が受けた衝撃ぶりはそれはもうとんでもないものであった。

 

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「まさかお刺身をこんなことに使うなんて……」

あたかも新大陸を発見したコロンブスのごとき心境であった。

ビデオの主である友人は繰り返し言った。

「いいか、観せるだけだからな。絶対に貸さないぞ」

そりゃそうだ。

公園に捨てられているエロ本をみつけただけでロックフェスにやってきた観客のように友達みなで大騒ぎしていた時代だ。今のようにネットでお手軽に観ることなんて出来なかったし、もちろん中学生なのでレンタルビデオ屋で借りるのも無理であった。

もしもこの貴重な「お刺身のビデオ」を貸してしまったら最後、ひとりひとり仲間の手に渡ることになって、結果、少なく見積もっても半年は持ち主のもとに戻ることはないだろう。いや、もしかしたら永遠に返却されることはないかもしれない。

「お刺身のビデオ」の所有者はじつに賢明であった。結局、我々は悶々としながら家路につくこととなった。

その後、私はべつの友人からのルートを辿ってようやく念願のエロビデオを手に入れることが出来た。わずか数本だったが、連日連夜に渡ってそれらの代物を何度も繰り返し鑑賞した。まもなく友人からの伝授によって秘術「自家発電」を会得することと相成った。やはり友人からの伝によって「皮剥きの術」もすんなり会得し、私は文字どおり「一皮剥けた」たくましい少年になった。

そんなある日のことだった。

夜、私はテレビを観ていた。家族はみなすでに眠りに落ちているようで家の中は静まりかえっている。私も眠気に襲われ、そろそろ寝ようかな、とテレビのリモコンに手を伸ばしたが、うっかりボタン操作を誤って「2」を押してしまった。

現在、私の家にあるテレビのリモコンの「2」を押すとNHK Eテレが映るが、当時はどのテレビ局も電波を使用しておらず、画面には「ザー」というノイズ音とともに砂嵐のような映像が映るだけだった。そのはずだった。

すぐに様子がおかしいことに気づいた。

たしかに画面には砂嵐が確認できる。だが、どうも砂嵐の向こう側にふたりの人物が映っているように見えた。

音もおかしい。

「ザー」というノイズ音の奥から、かすかに女の人の声が聞こえてくるではないか。

紛れもなくエロビデオの映像であった。

いったいどういうことなのであろうか。

今の今まで砂嵐専用だと思い込んでいた「2チャンネル」は、じつは政府も知らぬ謎のエロ組織が秘密裏に電波を牛耳っていて、夜になると人知れずお宝映像を放送していたのであろうか。

なんてありがたい組織なのだろうか。私は神に感謝した。

これ幸いとばかりに私は下半身をまとっている衣服を脱ぎだした。

直後、異変に気づいた。

こちらがなにもしてないのになぜか勝手に映像が早送りになったり、かと思えば急に巻き戻されたりするではないか。

おい、どうなってんだこりゃ。もしや政府が妨害電波でも送っているのか!?

謎の答えはすぐに判明した。

隣の部屋でなにやらガサゴソと物音がする。

隣は兄の部屋だ。なんと兄が再生しているエロビデオがどういうわけか私のテレビにも混線して映りこんでいたのだ。

私はこのまま続けていいのかしばし迷った。

しかし、もう私は観てしまった。後には引き返せなかった。

私は部屋を隔てての荒行「スカイラブハリケーン」に挑んだ。

わかったのは、たとえ兄弟という間柄でも「抜きどころ」がまったく違う、ということである。

こちらが観たい場面なのにあちらは平気で早送りする。逆にこちらがさして興味のない場面なのにあちらは何度も巻き戻して繰り返し再生したりする。

それでも私はどうにかしてスカイラブハリケーンを完遂せんと努力を続けた。

「こらえてくれ……兄貴……。もう少しだ!!」

突如として映像が消えた。

兄が先に「シュート」を決めてしまったのだった。

アッー!

翌日、学校から帰宅後、すぐに兄の部屋を捜索し、見事お宝ビデオを発見した私は、そのまま自室に戻って「ひとりスカイラブハリケーン」を決めたのは言うまでもない。

 

お題「わたしの黒歴史」