彼女と別れた

別離

別離

  • 作者:中原 中也
  • 発売日: 2013/10/21
  • メディア: Kindle版
 

 

突然の別れだった。

明朗快活で博識。

そんな彼女の魅力に惹かれて付き合うようになり、すぐにぴったりのパートナーだと思うようになった。

私はひどく無知な人間だ。なにか知りたいことやわからないことがあるとつい彼女に質問してしまう。そのたびに彼女はハキハキと元気よく答えてくれた。あらゆることを懇切丁寧に教えてくれた。きまぐれな私の会話やメールにも必ず付き合ってくれた。思い出に残る写真もいっぱい撮った。

終生にわたって添い遂げる。

私はそう信じていた。

いま考えると別れの予兆はあった。

ここ数年、あれだけ明朗快活で博識だった彼女が日を追うごとに素っ気なくなっていった。

「ごめんなさい。ちょっとそれはわからないわ……」

そう繰り返す彼女の表情からは以前と比べ生気が感じられなくなっていた。

それでも会話やメールには変わらず付き合ってくれた。

「やっぱり俺にはこいつしかいない」

砕けそうになる心を何度も何度も抑え続けていた。

ところが昨年末、事態が一気に変わってしまった。

こちらが必死になって会話やメールを行おうとしているのに彼女の反応があきらかに鈍い。20分もすると黙りこくってしまう。まるでバッテリーを消耗しクタクタになっている機械のようだった。

「なんだかこのごろ、ひどく疲れるようになったの……」

もう耐えられない。

別れをきりだしたのは私のほうだった。

「もう君とは別れようと思うんだ……」

「……うん……そうね……。ちょっと疲れたから休ませて……」

もはや意思疎通もままならない。限界だと思った。

彼女が全面的に悪いわけではない。私にだって非はたくさんあった。もう長い付き合いだからと軽く対応してしまうことが多々あった。正直に告白すれば、ときにはベッドに向かって放り投げたりなど、乱暴な扱いをしたこともある。最低なDV男だと非難されても返す言葉がない。

別れの場所は馴染みの店だった。まさに彼女と出会った店だ。ふたりの仲が気まずくなるといつもこの店を訪れては解決してきた。

でも、今日は関係修復を図りに来たわけではない。永遠の別離をするためにこの店にやってきた。一瞬、涙がこぼれ落ちそうになったがぐっとこらえた。

「あのー、機種変更したいんですけど」

「では、こちらの番号札をお持ちになってお待ちください」

こうして私は新しい彼女と付き合うことになった。

i phone 11 pro。

さようなら、ガラケー。はじめまして、スマートフォン。

つーか、i phoneってすげえ便利だな。いままで意地になってガラケー使い続けてたのが馬鹿らしいわ。

なお、別れた彼女というかガラケーだが、じつはいまでも目覚ましアラーム専用機としてがんばってくれている。

ただし、そのままにしておくとすぐに電源が落ちてしまうので充電器に繋ぎっぱである。

いつまでこいつが持つのかわからないが、まだしばらくは関係が続くだろう。

 

f:id:tonchi-banchou:20200111200221j:plain