いまから十数年前のことである。
新宿の地下駐車場でバイクを停めていたら、向こうからなんだかものすごい車がやってきた。
まるで『ベルサイユのばら』に出てくるような車といったらいいだろうか。いや、私は『ベルサイユのばら』をちゃんと読んだことはないし、車にも興味がないのでよくわからないが、とにかく滅多に見かけないような高級なクラシックカーであることは間違いなかった。
車からドライバーが出てきた。
もっと驚いた。
美輪明宏だった。
帽子を被ったりマスクをしたりなどの変装はいっさいしていない。金髪である。紫のドレス姿である。テレビで見る、あのまんまの美輪明宏である。
呆気にとられている私を尻目に、美輪明宏は階段を登って扉を開けると、新宿の街中へ颯爽と消えていった。
それから私は待ち合わせをしていた友人と会った。
まず、タワーレコードへ行った。おなじビル内の下のフロアにあるオッシュマンズへ行った。次は外に出て紀伊国屋書店へ行ったと思う。そのあとは腹が減ったという話になってラーメン屋に入ったような気がする。ラーメンのあとは覚えてないが、ついでにエロDVDショップにも行ったかもしれない。いや、行ったかもしれないじゃない。行ったはずだ。行かないわけがない。
3時間ぐらい経っただろうか。
友人と別れ、地下駐車場へ向かった。
扉を開け階段を降りる。すると、なにやら見覚えのある金と紫が混ざった大きな物体がどんどん近くに寄ってくるのがわかった。
美輪明宏だった。
車の中に忘れ物があることに気づいて戻ってきたところなのだろうか。
よくわからなかったが、とにかく呆気にとられた。
そして、呆気にとられている私を尻目に、美輪明宏は階段を登って扉を開けると、再び新宿の街中へ消えていった。
携帯電話の待ち受け画像を美輪明宏にすると運気がアップするという噂が広まりはじめていたのはたしかこのころだったはずだ。
私の携帯の待ち受け画像は美輪明宏ではなかった。
ただ、これは絶対に運気がアップするに違いないと思った。
おなじ日に、偶然2回も会っているのだ。運気がアップどころじゃない。地球が爆発してしまうかもしれない。
あれからかなり経つが、もちろん地球は爆発などしていないし、私の運気がアップした気配もいっさいない。
私はいま、呆気にとられている。