映画『オーバー・ザ・トップ』‐筋肉こそが正義‐

『オーバー・ザ・トップ』は「スタローンがアームレスリングをする映画」ぐらいの知識しかなかったが、じっさい鑑賞してみるとそれは半分は当たっていて半分は間違っていた。

 

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たしかにスタローンがアームレスリングの試合に精を出すシーンはなくはない。クライマックスでは常に大汗をかいているスキンヘッドのデブの世界チャンピオンと対決したりもする。だが、本作にとってアームレスリングはさほど重要なアイテムではない。

大体からして本作は厳密に言えばいわゆる熱血スポ根映画ではない。なんなら、アームレスリングではなくテニスや柔道とかでもストーリー的に充分成立していたはずである。ただまあ、「ほかのスポーツに比べたらシンプルでわかりやすい」といった理由があったかもしれない。なにより、「画的に筋肉が引き立って見えるから」というのもあったのだろう。

そう。

「筋肉」だ。

とにかく、この映画が口を酸っぱくして主張しているのは「筋肉」だった。

もう少し詳しく要約するなら以下である。

「筋肉こそが正義」

これである。これ以上でも以下でもない。

まあ、スタローンの映画なのである程度想像はついていたが、それにしてもこれほどまでに筋肉一辺倒な映画だとは思わなかった。

ある日、宮殿のような豪邸に住んでいる大金持ちのおぼっちゃまの前に筋骨隆々のマッチョマンが現れる。もちろんこのマッチョマンこそがスタローンである。スタローンは大昔におぼっちゃまと彼の母を捨て行方をくらました父であり、それが突如として「これからいっしょに生活していこうぜ」と彼のもとへ戻ってきたのであった。

尚、スタローンが家族を捨てたわけは最後まであきらかにされず謎のままで映画は終わる。あと、おぼっちゃまと生活を共にしてきた母は病に伏せており、結局途中で死んでしまうのだが、なんの病気だったのかも謎のままやはり映画は終わる。さらに、捨てられ憎んでいるはずの母とスタローンがなぜ超仲良くお話しているのか、そもそも大金持ちの令嬢である母と風来坊のトラックドライバーである父スタローンがどんな経緯で出会い恋に落ち結婚したのか、等、細かい諸々のほぼほぼ一切合切が謎のままで終わる。

もうアラが網張ったようなプロットであるが、とはいえ「筋肉こそが正義」という主義主張だけは頑として貫かれている。

劇中、スタローンは、少し違うけどまあ大体こんなようなセリフをおぼっちゃまに言う。

「勉強をするのもいいが、ちゃんと筋肉付けろ」

「人生は厳しいんだ。だから筋肉付けて何度でも立ち向かえ」

「ステーキ食って筋肉付けろ」

「かあちゃん死んで悲しいな。よっしゃ、筋肉付けてがんばってやってこうや」

そして、はじめはぎこちなかった父と子は最終的には超仲良くなる。もちろん、筋肉のおかげで超仲良くなる。

「さすがにそこまで単純な映画じゃないのでは…?」

と思われるかもしれないが見ればわかる。基本的にはほんとうにそれだけの映画だった。

「たぶん、スタローンはアニマル浜口と気が合うに違いない」

と思った。

あと、

「ミスターSASUKEの人とも気が合うに違いない」

とも思った。

尚、劇中、プロテインは出てこなかった。ツナ缶もゴールドジムも出てこなかった。それだけがなんだか残念だった。