メリークリなんとかという謎のイベントもようやく過ぎ去りいよいよ今年も終わりが近づいてきた。というわけで、今年最後となる「今月の消化物」を書いておこうと思う。
●【音楽】ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ『Who Built the Moon?』
相当な意欲作であるということは感度が鈍い私でもさすがにわかるし、まあなにしろ超ギラギラしているアルバムだ。
ギターもベースもドラムもノエルの歌いっぷりも、とにかくギラギラしていて、めちゃくちゃロックしている。齢50を過ぎたにもかかわらずまるで初期衝動がいまになってぶり返したようなテンションの高さには頭が下がるし、この圧倒的なまでに貪欲な姿勢は全面的に支持したい。
ただ一方で、どこか物足りなさを感じてしまうのが正直なところではある。頭から最後まで心地よいサウンドが聴けるが、どの曲もあとワンポイント、なにかが足りない気がしてしまう。サウンドプロダクションにしろ、曲そのものの出来にしろ、強烈にガツンと来るものがない。おなじサイケ志向の楽曲なら、オアシス時代にリリースした「Setting Sun」や「Let Forever Me」といったケミカル・ブラザーズとのコラボ曲のほうがずっと好きである。
ただし、前述したように意欲的な姿勢自体は買いたいし、サウンドの方向性としても嫌いではない。むしろ好きだ。
なので、次回もサイケロック的なサウンドを目指すのなら、ぜひケミカルが全面的にプロデュースを担当するアルバムを期待したい。それこそ、凄まじい作品になるはずだ。
●【音楽】松崎ナオ『39』
現時点での最新アルバムで、演奏は全曲本人によるフォークギター1本のみの弾き語り作品。
まずなにしろ、松崎ナオの歌声がいい。万人受けはしないだろうが、それでも多くの人に刺さるであろう歌声であるのは間違いない。
日常の機微を描いた詩作も、ときに力強く、ときに切なげで、もうなんだかグッときてしまう。
演奏も良いし、収録されているどの楽曲もほどよくキャッチー。それでいてゴテゴテとしたくどさもない。
なんでも埼玉県にある寺院で録音されたらしく、しかも全曲一発録りとのことらしい。そのためだろう、独特な緊張感が終始一貫として感じられるし、どこかスピリチュアルな匂いも漂っている。ときおり聴こえてくる鳥の鳴き声や通り過ぎていく自動車のエンジン音さえも崇高に聴こえさせてしまう力がこのアルバムにはある。
うん。良い。素晴らしい。
それにしても、①の「hello, goodbye」は、とんでもない名曲である。
●【音楽】鹿の一族「先人の教え」
以前書いたとおり、って、誰も読んじゃいないだろうが、そもそも私が松崎ナオの音楽を聴くようになったのは、3ヶ月ぐらい前に「空飛ぶ音楽祭」というフェスに足を運んだのがきっかけである。その日、松崎ナオがヴォーカルとギターを担当しているロックバンド「鹿の一族」のライブが行われていた。なんの気なしに観覧してみたら、こりゃいいな、となって、以降、関心を寄せるようになったのである。
んで、そんな鹿の一族の待望のMVが先日よくやくYouTube上にアップされたので聴いた。
ライブを観ていたし、この曲も演奏されたはずなのでもちろんわかっちゃいたが、こうしてあらためて正式な音源を聴いた途端、あのときに感じた感覚がにわかに蘇ってきた。
うん。かっこいいわ。やっぱり。
とにかく、メタリックでヘヴィなサウンドがじつに心地よい。松崎ナオのねちっこい歌声も、ジャキンとジャキンと金属的に鳴り響くギターも、ぶんぶんうねりまくるベースも、パワフルでタイトなドラムも、なにもかもが素晴らしい。
動画を再生してすぐに思い出したのが、PJハーヴェイの『Rid Of Me』であり、シェラックの『At Action Park』だ。つまり、スティーヴ・アルビニである。
私のようなグランジ~オルタナ好きの人間にはどんぴしゃなサウンドであろうし、といって、単なる模倣になっておらず、いかにも松崎ナオって感じのポップなメロディがちゃんと展開されているのが嬉しい。なにより、「松崎ナオ&バックバンド」みたいなサウンドになってないのがとても良い。
それにしても、ついこないだのMステのスペシャルで椎名林檎とデュエットしているのを見たが、これが堂々たるパフォーマンスであって、なんだか嬉しくなってしまった。
おそらく松崎ナオにとってはこれまでのキャリアでもっとも多くの人に見られることになったであろうあのMステのパフォーマンスがはたしていかほどの人々に刺さったのかわからんが、1月にリリースされる鹿の一族のファーストアルバムは売れて欲しいし、松崎ナオ単体としても、せめてリキッドルームでワンマン張れるぐらいの存在になって欲しいと切に願う。
●【音楽】Polaris『走る』
これは形態的にはミニアルバムということでいいのだろうか。
いずれにしても、前作からおよそ3年ぶりにリリースされたアルバムであり、収録されているのは6曲で(フィッシュマンズのカバー「SEASON」も収録)、時間にして計28分程度という内容である。
お馴染みの安心安定のポラリスサウンドが展開されている、という内容であるが、正直食い足りないというのが本音である。
ポラリス特有のダビーな音像は相変わらず心地よいし、どの曲もポップで喉越しも良い。だが、3年ぶりのリリース音源としてはどうもインパクトが足りない。どの曲も悪かないが、どの曲もバンドの代表曲とはならないだろう。キラーチューンと問答無用に言えるような曲が欲しかったなあ、と思う。
●【本】金子達仁『プライド』
格闘技・プロレスファンにとってはあまりにも有名なあの高田延彦VSヒクソンという性器の、もとい世紀の一戦の舞台裏を描いたルポタージュ。
高田、ヒクソンの当事者同士に加え、ヒクソンの道場でフルボッコにされてしまった安生洋二や、PRIDEの発足に尽力し後にPRIDEの運営そのものにも携わることになる榊原信行や、あと最近世間を騒がせているお相撲さんのひとりである寺尾の証言などもアリ(なんで寺尾が出てくるのかは読めばわかる)。
「ヒクソン怖いよー」
って、戦前から「毎日毎日、破滅へのカウントダウンを聞かされている気分だった」という高田の元に「これでも見て気分を高めたらいいよ」と知人から送られたのがライオンの写真集だったという下りだけが超おもしろかった。
●【映画】『ゲット・アウト』
とてもおもしろかった。
詳しい感想は頭がいい誰かが書いていると思うのではぶくが、個人的には超オススメの映画だ。
「サメや大蛇も怖いけど、やっぱり人間が一番怖いよー」
と、あらためて思った。
つーか、ジャケ中央の椅子に座っている黒人俳優さんの形相からして迫力ありすぎだろ。
怖いよー。
以上です。また気が向いたら引き続き来年も書くつもりです。