いきなりでなんですが、まずは下の写真をごらんになっていただきたい。
先日訪れたとあるショッピングモールの男子トイレ内にて立ち小便用の便器で用を足そうとした際、ちょうど視線が合う部分に貼っつけられていたものだ。
「あー、見たことあるわ」
という男子諸君も大勢いるのではなかろうか。
ここ数年であろうか、商業施設などの男子トイレ内でちょくちょくこの手のものを見かけるようになったが、あらためて考えてみるに、これはものすごい文言である。
なにしろ、「いつもきれいにご利用頂く」ことを前提にして、用を足す前からあらかじめ「ありがとうございます」とお礼を言ってきているわけだ。
ほとんど脅迫ではないか。
そしてプレッシャーからか、言葉どおり「コース」から外れないようにと、気づいたらやたらと集中しながら用を足している自分がいるのである。
感心した。じつに効果的である。これを発明した人間は天才であると感心せざるを得ず、私はこれを「あらかじめお礼を言っとく作戦」と名づけたい。
で、これは他の例にも使えるのではないかと私は思った。
というのも、様々な施設内や街中など、ふと目線をやればありとあらゆるところに「注意書き」が溢れている。
たとえば以下の「注意書き」はどうか。
子供の往来が激しい通学路である。車やオートバイなど、無茶なスピードを出しながら運転して、万が一、子供らになにかあったらことだ。至極当然な注意喚起と言えよう。
ただ、
「スピード落とせ」
という部分ははたしていかがなものか。
心なしかどうも上から目線な文言のように感じられてしまう。これでは変に気分を害してしまったり、あるいは反発してしまう人間も中にはいるのではないか。
そこで有効なのが前述した「あらかじめお礼を言っとく作戦」である。
訂正して文章に書き起こしてみた。こうだ。
「通学路 いつもスピードを落として頂きありがとうございます」
どこか命令的に感じられた文言が一気にやわらかくなり、誰しもが素直に従いたい気分になろうというものだ。
先ほどの「通学路 スピード落とせ」と違って文言自体はとても丁寧である。
しかしながら、これではどうも弱いと思う。カラスなのかペリカンなのか、よくわからないが、左隅の部分に描かれている意味不明かつゆるゆるな鳥のイラストのせいもあって、「注意喚起をする」という意味で不合格と言わざるを得ない。
これも「あらかじめお礼を言っとく作戦」を活用して直してみた。以下の文言がそれだ。
「あぶない!! いつもこの中にはいったり、物をなげたりしないで頂きありがとうございます」
少々まわりくどく感じてしまうが、あらかじめお礼を言われたとなれば悪い気がしないし、こちらのほうがずっと効果があるのではないか。
エレベーター内に貼っつけられていたものだがこれも直してみた。以下だ。
「いつもカギを取り出さないで頂き、おかげで敷居の隙間に落とすおっちょこちょいな奴がいなくなるのでありがとうございます」
もっとまわりくどい文言になってしまったが、一応伝わるだろう。これだけ丁寧に書かれているのだ。「気をつけよう」という気にならない奴は人間じゃない。
犯罪の抑止にも使えるかもしれない。
「いつもチカンをしないで頂きありがとうございます」
「いつも違法なクスリに手を出さないで頂きありがとうございます」
「いつも人を殺さないで頂きありがとうございます」
「いつもミサイルを発射しても街や建物に落とさないで頂きありがとうございます」
なんだか文言自体どこか殺伐としている感が否めないが、これで世界は平和になる。
なんて思っているのはたぶん私だけである。