映画『殺しのドレス』‐「無駄」に情熱をかけて意味を与えている上質なサスペンス‐

個人的にフェイバリットな監督のひとりである巨匠ブライアン・デ・パルマの『殺しのドレス』であるが、はじめて観たときは唖然とした。

 

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日頃から夫に欲求不満を抱えているおばはんが、ボーイハント目的で街へと繰り出し、で、念願叶って男とコトをいたしたと思ったら、直後に何者かによって殺害される……というなんともマヌケなお話であり、しかも、おばはんが殺されたその理由というのが輪をかけてマヌケな理由なのである。

とくに美術館でひとりの男に照準を定めたおばはんがその男をおびき寄せようと四苦八苦するシーンは、この映画の中でもマヌケの極地と言えるシーンだが、カメラワークが無駄に凝っていて、そしてまた、意味不明なほどにやたらと長い。

どんな情熱なんだ!

思わずそう問い詰めたくなってしまった。

しかし、少なくともありきたりなシーンを撮ってお茶を濁されるよりかはずっといいし、ストーリー上、無駄と言えば無駄なシーンだが、やけに印象に残ったのもまた事実だ。

じっさい、そんなマヌケなシーンの連続でありつつもサスペンス映画として最後までハラハラドキドキしながら観ることができたのは、この凝りに凝りまくった流麗なカメラワークの功績がなによりも大きい。

というか、この巧みなカメラワークがなければあやうくうんこ映画になるところだったろう。

あと、音楽も良い。どうしようもなくマヌケな物語であるはずなのに、美しくも儚いサウンドがやたらと緊張感を煽りまくっていて、ひじょうに効果的だった。

そういった意味で、これは、いかにどうしようもなくマヌケなお話であっても、撮りようによってはものすごく怖いお話にできる。

そんなことを教えてくれている映画なのかもしれない。