「まったく不毛なことだが、私の悪いクセは、外国のタレントを理解しようとするときに、『この人は日本でいえば誰なのか』と考えてしまうことだ」
と書いたのは在りし日のナンシー関であるが、前回の記事でウィル・スミスは日本でいったら福山雅治で、LL・クール・Jが世良公則で、アイス・キューブが大友康平で、クーリオは甲斐よしひろ、と勝手に結論づけた私も同類の人間である。
ナンシー関が言ったように、まったく不毛なことだ。意味などない。だが、ついつい考えてしまうのだ。
先日、『アウト・オブ・タイム』という映画を観た。
主演はウェズリー・スナイプス。
もちろん映画を鑑賞している最中、私が真っ先に考えたのは、
「ウェズリー・スナイプスは日本でいえば誰なのか」
というじつに不毛なことであった。
おなじ筋肉アクション俳優という大雑把な括りから考えてみて、今現在のウェズリー・スナイプスはシュワルツェネッガーやスタローンやブルース・ウィリスなんかと同等のポジションでない、というのはなんとなくわかる。少なくともここ数年のあいだに「待望のウェズリー・スナイプス新作主演映画、ついに公開!」なんつって映画ファンが大騒ぎしているなんて話は耳にした覚えがないし、ましてやウェズリー・スナイプスの映画といえばもっぱら見かけるのは午後ローである。
以上のことを踏まえ、あらためて「ウェズリー・スナイプスは日本でいえば誰なのか」という問題を考えてみた。私が導き出した答えが以下である。
「ウェズリー・スナイプス=坂本一生」
たぶん、というか絶対に違う。合ってるの筋肉だけじゃないか。
では、以下はどうか。
「ウェズリー・スナイプス=ケイン・コスギ」
坂本一生よりは多少近づいた気がするが、やっぱり違うと思う。
そもそも日本人のアクションスター自体が稀な存在なのでイメージできないのだ。
まあ、だったらするなよって話であるが。
さて、そんなウェズリー・スナイプスa.k.a坂本一生もしくはウェズリー・スナイプスa.k.aケイン・コスギの主演作『アウト・オブ・タイム』についてようやく話をしよう。
結論から言うと、本作に出てくる登場人物はみな大馬鹿者である。
とくに悪党の軍団が酷い。とんでもない馬鹿しかいない。
暗示をかける効果がある特殊な幻覚剤を裏社会で取引しようと企む悪党軍団。だが、内部に裏切者がいることを知った悪党どもは、裏切者と内通しているCIAのおっさんがダイナーへ19時にやって来るという情報を手に入れる。そこにやって来たのがウェズリー・スナイプスで、彼は悪党どもに拉致されてしまう。
だが、ウェズリー・スナイプスはCIAの職員でもなんでもないし、ましてや幻覚剤のことなどまったく知らない無関係な人間だ。にもかかわらず、「19時にダイナーにやって来た」というただそれだけを根拠に、拉致されて言いがかりをつけられ幻覚剤を投与されたうえ拷問にかけられてしまうのだ。まさにとんだとばっちり状態のウェズリーなのである。
「わからない。なにを言ってるんだ!」
やられっぱなしのウェズリーは言うのだが、そりゃそうだ。人違いなんだから。
その後、じっさいに裏切者と内通していたCIAの黒人のおっさんがウェズリーの顔を見て
「そうか! 私と間違えられたんだ!」
と興奮した口調で言うのだが、ぜんぜん顔が似てなくて笑った。
そもそも、劇中「相手が黒人」と悪党どもが認知している下りは一切ないのである。まあ、テレビ放送されたやつを観たのでもしかしたらその下りはカットされてたのかもしれないが、それにしても
「黒人」
「19時にダイナーにやって来る」
という手がかりだけで捕まえるなんてとんでもない大馬鹿者どもだと言うしかない。
ウサイン・ボルトと間違って松崎しげるを捕まえるようなものだ。
「おい、どうやったら速く走ることができるんだコノヤロー!」
ボコられたしげるが問いかけられ、
「わからない。なにを言ってるんだ!」
と答えるようなものだ。
しかも悪党どもにとって運が悪いことに、じつはウェズリーは陸軍特殊部隊の元兵士なのだ。その後描かれる悪党どもの顛末については書くまでもないだろう。
「馬鹿は犯罪には向いてない」
そんな教訓を得られた映画だった。