夏が苦手なんです。
なぜか。
暑いからだ。
暑さがやる気を著しく減退させる。
冬はまだいい。
外にいてもある程度の寒さだったら衣服を着込めば凌げるし、身体を動かすことで体温の上昇を図ることだってできる。
では、夏はどうか。
いくら暑いからと言って往来で素っ裸になるわけにはいかない。じっとしていても暑いし、身体を動かしたらなおのこと暑い。
ほんとうにいやだ。
TUBE。サザン。みのもんた。大仁田厚。
夏が人一倍苦手な私は、夏や暑苦しさを感じさせるものをなるべく避けてこれまで生きてきた。
中でもとくに苦手なものがある。
夏の高校野球というやつだ。
あれがとてもいやだ。
べつに高校球児に恨みがあるわけではない。
なぜ猛烈な陽光が照りつけるグラウンドで、わざわざ汗水たらしながら金属の棒を振ったり白球を投げあったりしなきゃならんのか。
わけがわからないのだ。端的に言って暑苦しい。
夏に開催するにしても涼しいリゾート地でやりゃあいいじゃないか。たしかに少し味気ないかもしれないが、野球の試合をすることに変わりはないじゃないか。
とはいえ、これが相撲じゃなくてまだよかった。
炎天下のグラウンド上で、太った大男たちが押しあったり投げあったりしているのだ。暑苦しくってしょうがないじゃないか。
虫もいやだ。
蚊、ハエ、ゴキブリ、カメムシ、蛾。
見るからに気持ちの悪い昆虫どもがにわかに活動的になるのがとてもいやだ。
先日も夜の繁華街をバイクで信号待ちしていたら左腕にいきなりカメムシが停まり、思わず「ぎゃああああああああああ!!!」と奇声を上げてしまった。
そういえば、昔つきあっていた女と夏の夜の街を自転車で走っていたら、女の鼻の穴に虫が入って大騒ぎになったこともあった。なんの虫だったかは結局わからなかったが、「つきあっている女の鼻の穴に虫が入ったらいろいろと台無しになる」ということを私はあの一件で学んだ。
とくに鼻の穴がでかいわけでもなかった女があのような事態に巻き込まれたのだから、高橋真麻なんて相当苦労しているはずだ。
これもまたある夏の日のことだった。
その日、友人との会合を終え自宅前に到着した私は、道中立ち寄ったスーパーで購入してきた缶ビールのケースを車から降ろしているところだった。
ふと前のほうに目をやると、60ぐらいの見知らぬじーさんが近づいてきた。
白のランニングシャツに短パン、頭には麦わら帽子を被っていた。夜中の2時すぎである。
「あっ! なんかやべえやつだ!!」
慌てて家に入ろうとしたが、やおらじーさんが声をかけてきた。
「どうもおおおおおおおお!! なあにををををを、されてるんですかああああああああああ!!!」
「えっ!! いや……ビール運んでるんですけど……」
「そうでしたかああああああああ!! ご苦労さまでええええええええええええす!!!」
なぜかナチス式を敬礼をすると、すぐにじーさんは去っていった。
夏だ。夏がじじいをそうさせたんだ。
もしも魔法が使えたら、私はこの世界から夏をなくしたい。
あと夏になると決まって賃貸の大家のじーさんが建物の周りを徘徊していて、挨拶しても3回に1回は「どなたでしたっけ?」と返されるのがしんどいので、あのじーさんも魔法でどうにかしたい。
うん。なんかうまく書けなかった。
出来ればこれも夏のせいにしてしまいたい。
今週のお題「もしも魔法が使えたら」