映画『マジェスティック』‐世にも珍妙なスイカを巡る復讐劇‐

『マジェスティック』を観た。チャールズ・ブロンソン主演の映画である。

マジェスティック [DVD]

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  • 発売日: 2005/06/24
  • メディア: DVD
 

 

ブロンソンが演じているのはマジェスティックという名の農夫だ。以前、このブログでも取り上げた同じブロンソン主演の『ブレイクアウト』に近しい雰囲気のあるホノボノ系のアクション娯楽作で、そこはかとなく漂うB級感がたまらなくいい塩梅である。いい意味で安心できる内容で気軽に楽しめた。

gu-tara-tonchi.hatenablog.com

 

ただ、鑑賞していて驚いてしまった部分がある。作中、「スイカ」がやたらと登場してくるのだ。

なにしろスイカである。

「ハァ? スイカがやたらと出てくるアクション映画ってなんなの…?」

と疑問に感じた人も多かろう。

詳しく説明しよう。

前述したとおりブロンソンが演じているのは農夫でスイカの収穫で生計を立てている人物である……いや、というより「スイカ狂いの人物」と言ったほうが正確であろう。

物語は農夫ブロンソンが自分の所有する農場に生ったスイカの収穫を手伝うことができる人間を斡旋している場面から始まる。

相応の雇用者を無事確保し、さっそく作業場である農場へ向かうブロンソンご一行。しかし、いざ農場に着くとそこには驚くべき光景が広がっていた。なぜか見知らぬ町のゴロツキ野郎どもが勝手にスイカを収穫しているのだ。果たしてこれはどういうことなのか。

「ボビー・コーパスだ。穫り入れの人手をつれてラフンタから来たんだ。1時間1ドル20。かなり賃金を節約できるんじゃねえかなあ」

ゴロツキ野郎どものリーダーがブロンソンに悪びれた様子もなく言い放つ。

対するブロンソンもまったく怯んでいない。堂々とこう言い返す。

「スイカに触ったこともないような素人は雇わないんだよ。あいつらをトラックに乗せて引き揚げてくれ」

あまりにもきっぱりとブロンソンが言い返すもんだからすっかり面目丸つぶれのなのがゴロツキのリーダーだ。逆上しショットガンを手にとってブロンソンを威嚇する。しかしブロンソンは一瞬の隙をつき難なくショットガンを奪い取ることに成功。ゴロツキ野郎どもはあっという間に一蹴される。

ところがゴロツキ野郎どもを追っぱらったあと、今度はなぜか警官がやってきてパトカーで連行されていってしまうブロンソン。

「ショットガンで暴力をふるわれた!」

あろうことかゴロツキ野郎どもが警察にそう訴えたのだ。

先にショットガンを向けてきたのはゴロツキ野郎どもじゃないか。とんだ難癖である。

そして刑務所で警部らによる事情聴取が執り行われることになるのだが、あくまでもブロンソンの態度は一貫している。ブロンソンの主張はこうだ。

「ねえ警部さん。俺は64ヘクタールの畑に生っているスイカを穫り入れないとね。忙しいんですよ。とりあえず畑に帰りたいな」

そんな理由で警察が開放してくれるわけがないじゃないか。

いったいこの農夫は何者なのか。過去に何かあるのではないか。

いぶかる警部はなおも聴取を続けるがブロンソンの態度は頑なだ。

「結婚は?」

「結婚4年で刑務所に入ったら女房に逃げられてね。今週中に穫り入れなかったらスイカがみんな駄目になっちまう」

もうここらあたりで映画を観ている誰もがはっきりと気づくだろう。

 「ああ…、ダメだこの人。スイカのことしか頭にねえよ…」

と。

さて、やむなく刑務所に収監されることになったブロンソン。やがて護送車で拘置所へと移送されることになるのだが、ここで大事件が勃発する。

道中、数人の男たちが突如出現し護送車をやおら強引に停車させるとなんと警官らを次々と拳銃で撃ち殺していくではないか。

じつは護送車で移送されている犯罪者の中に殺し屋のボスがいて、この殺し屋のボスを奪還しようと手下どもが襲撃してきたのである。

思わず息を飲む緊迫した場面だ。果たしてブロンソンはどうするのか。

だがしかし、警官たちと殺し屋たちによる激しい銃撃戦が繰り広げられる中、ブロンソンは誰もが考えつかないであろう意外な行動に出る。殺し屋のボスだけを車中に残し、そのまま護送車を運転して追ってくる警察や殺し屋どもを巻くと、人里離れた山中の小屋に連れて行くのだ。

いったいなにを考えてるんだこいつは。誰もがポカーンとする場面だろう。

そうか。金が目的か。

察した殺し屋のボスがブロンソンに言う。

「俺と一緒にくりゃあ礼を払う。それも大金だ。いい話だろ?」

「せっかくだが断る」

だからなにがしたいんだこいつは。殺し屋のボスも諦めない。

「いいか、今夜のうちにロサンゼルスに行ける。そこから女でも連れてメキシコシティへずらかるんだ。ヨットでもなんでも好きにやらせるぞ」

「俺はロスへもメキシコへも行ったことがある。女もごめんだね」

「じゃあ、なにをしてえんだ?!」

「スイカを穫り入れたいのさ!!」

やっぱりだ。

スイカである。

この並々ならぬスイカへの情熱はどこから来るのか。

ともあれ、その後、殺し屋のボスから大金をくすねたうえ当初からの目的であるスイカの収穫へと向かおうとするブロンソンだったが、殺し屋のボスの女が隠し持っていた拳銃で反撃に遭いその場から逃走する。

もちろん怒り心頭なのは殺し屋のボスである。手下を引き連れてブロンソンの農場にやってきた殺し屋のボス。やがてふたりは倉庫に保管されている大量のスイカを発見。しばし眺めたあと、ふとこう口にする。

「よく働いたもんだ」

「あぁ」

感心してどうするんだ。いやおもしろいよ、この人たち。

これにはさすがに「いかんいかん」と我に返ったのか、すぐさま殺し屋のボスは非情な行動に打って出る。

「あいつの望みはスイカを穫り入れることだけだといったな。……このスイカをぶっ潰せ!」

手下どもの操るマシンガンによって粉々になっていく大量のスイカ。

直後、無残な光景を眼前にしてうなだれるブロンソン。農家やスイカ好きにとっては涙なしに観られないシーンであろう。

傷心のブロンソン。しかし不屈の漢ブロンソンはスイカの恨みを晴らすため立ち上がる……って、いや、まあ、一応、愛する女と仲間たちを守るため、というもっともらしい描写もあるっちゃあるんだが、ブロンソンの口から出てくるセリフがなにしろスイカのことばかりなので、これはやはりスイカに取り憑かれた男の物語と考えるのが自然であろう。

大体からして劇中、ブロンソンはこんなあだ名で呼ばれているのだ。

「スイカ野郎」

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そんなわけで、最終的にはスイカの敵討ちに燃えるブロンソン、ブロンソンの命を狙う殺し屋の集団、さらに警察が入り乱れての大立ち回りという展開になっていくわけだが、ネタバレになってしまうので結末は書かないでおく。まあ、あえて一言付け加えるとすれば「スイカの恨みは深かった」ということである。 

次はメロンかトウモロコシあたりで続編を作って欲しいと思ったが、ブロンソンはすでに亡くなってしまっているのだった。残念でならない。