私がつい見てしまうテレビ番組のひとつに「警察24時」がある。
車のスピード違反だの痴漢だの違法薬物の所持だの、そんなような「悪さをした連中」がひっきりなしに登場する例のあれだ。
春だとか年末だとかの時期になると民放各局が示し合わせたかのように集中的に放送し、いつ見てもとくに変わり映えのしない内容であるのは重々承知しているが、ついついチャンネルを合わせてしまう。
いったいこんなもののなにが面白いのか。
自分でも常々疑問に思っていたが、ようやくその理由が判明した。
それは、悪さをした連中の言い訳がなにしろ面白いからである。
子供の言い訳ではない。いい歳した大人がなんとか罪を逃れようとしょーもない言い訳を繰り広げているのだ。
こんなに楽しいものがあるか。
なんらかの違法行為をした者の逮捕の瞬間や、あるいは警察と犯人とのカーチェイスだとか、そんなもんははっきり言ってどうでもいい。私が楽しみにしているのは犯人たちの言い訳、その一点のみなのである。
悪趣味だと思われるかもしれない。しかし、好きなんだからしかたがないじゃないか。
たとえば、ついこの間、CSの映画NECOで放送された「逮捕の瞬間!警察24時 特別編~悪と闘う熱血刑事たちの22年~」だ。
「この夜、警視庁第一方面、自動車警ら隊の隊員たちが渋谷で声をかけたのは高級外車を運転する若い男」
というナレーションが流れ、画面にはトレーナーにチノパン姿の男がふたりの警官から所持品検査を受けている様子が映し出されている。
「最後ベルト周りいいですか?」
そう声をかけたのはひとりの警官だ。
「いいよ」と淀みなく答える男。警官らがベルト周りを調べようとしたまさにそのときだった。
「えっ? 待って待って。違う違う。おかしいおかしい。違う違う」
いったいなにを言ってるんだこいつは。「いいよ」と言い放ったその舌の根も乾かぬうちに「待って待って」じゃないだろう。おまけに「違う違う」ってなにが違うんだ。もはや会話にすらなっていないのである。
そして案の定、男の服の中から隠し持っていた大麻が見つかる。
さすがに観念するだろう。だが、それでも警官らの制止を振りほどこうと必死に抵抗を続ける男。すると突然、男の口から思いもよらぬ言葉が飛び出してきて私は耳を疑った。
「痛いよ。やめてよ。お願い、助けて、誰か」
誰も助けるわけないじゃないか。正義のスーパーマンが突然やってきて助けてくれるとでもいうのか。もはやコントである。
さらに窃盗容疑で逮捕状が出ている男を刑事らが張り込む場面、ここでの犯人の言い訳はどうだったか。
自宅から出てきて車で外出する男を追う刑事ら。やがて男の車がコンビニの駐車場に停まる。すかさず男の車が移動できぬように刑事たちの車が周りを取り囲んだ。もはや男にとっては逃げ場がない状況である。
異様な光景に気づいたのか、犯人は駐車場に車を停めたまま中から出てこない。車を降りた刑事らが犯人に声をかけにいく。すると、なんと犯人は突然車のエンジンをかけ周囲を取り囲んでいる車やコンビニの外壁に向かってものすごい勢いで体当たりをしてきたではないか。
一歩間違えば命の危険さえある状況である。
だが、抵抗は一瞬だった。
刑事らは専用の器具のようなもので車の窓ガラスを破壊し、あっという間に犯人は取り押さえられた。刑事らから怒号を浴びる中、犯人の口から飛び出してきたセリフがこうだ。
「わかっとる。怒鳴らんでええがや。おとなしくしとるやろオレ」
なにが「わかっとる」だ。ふざけるのも大概にしろよと言いたい。
だが、刑事は冷静だ。冷静にこう返す。
「おとなしいって、これだけ当ててなにがおとなしくしてるだ!」
見事なまでのボケと突っ込みの応酬である。コントなのである。
「逃げるように行かんでもええがな」
夜の街でなにやら怪しい動きをしているおっさんに向かって大阪府警第一方面機動警ら隊が声をかけた場面だ。このとき放たれたおっさんの言い訳もなんとも言えぬ味があって私は好きだ。
「逃げんからしょんべんさせてください」
結局、おっさんは薬物の所持・使用で指名手配されていることが判明し、そのまま逮捕された。
はたしてその後、おっさんは無事に小便を済ますことが出来たのだろうか。
だが、さすがにそんなところまでは放送してくれなかったのだった。