映画『G.I.ジェーン』‐スポ根映画のような爽快感あふるる作品。個人的にはヴィゴ・モーテンセンに助演男優賞を贈りたい‐

まだヤングな年代だったころ、それなりにいろいろなところでバイトをした。

スーパーマーケット、コンビニ、TSUTAYA、ブックオフ、あとセールスマンなんかもやった。時にはこれらを掛け持ちしながらバイト三昧の日々だった。

中でもいちばん長期間続いたのがコンビニのバイトである。4年近くやっていたはずだ。

コンビニで働き始めて2年ほど経ったころだろうか。ある日、新入りのバイトとしてやってきた女と一緒になった。

俺は当時高3。新入りの女は高1だった。

女「今日から働くことになった○○と言います。よろしくお願いします!」

私「○○です。よろしく~」

やたらと恰幅のいい女だった。

このコンビニがはじめてのバイトなのだろうか。無駄に緊張しているのがアリアリと伝わってきた。俺はベテランのバイトらしくやさしげに接しながら会話を続けた。

「学校どこなの?」

「××高です」

「××高かー。俺、△高」

「あー、はい。知ってます」

この日の俺は店の副店長的ポジションのおばちゃんから「この子にいろいろ教えてあげて」とのミッションを受けていた。

おざなりの会話を一通り済ませると、ミッション遂行のため、早速レジ打ちの仕方を教えることにした。

「じゃあさ、いまお客さんがちょうどいないから、レジの打ち方教えるね」

「押忍、先輩!」

「……えーっと、じゃあ、そこのガムでいいや。ここにバーコードあるでしょ?」

「押忍、先輩!」

「……ここにこの部分を当ててピッって鳴ると値段が出るから……」

「押忍、先輩!」

「……で、お客さんからもらったお金をここの数字のボタンで打ち込んで……」

「押忍、先輩!」

「……んで、レジが自動で開くからお金取ってお釣りを渡して……」

「押忍、先輩!」

「……うーんと、えーっと……大体わかった……?」

「押忍、先輩!」

万事がこの調子で、正直、面食らった。

「……なんか部活やってる?」

「押忍、柔道やってます!」

柔道のせいか? 柔道家はこれがフツーなのか? 

俺はバリバリの文系帰宅部なので体育会系の礼儀作法について詳しいことはよくわからないが、にしてもなんでもかんでも「押忍、先輩!」はないじゃないか。

初対面の手前、むやみに突っ込むことも出来ず、その日はなんだかモヤモヤしたままバイトを終え帰宅した。

その後も女と一緒に働く機会は数回あったが、なにか教えたときの返事は決まって「押忍、先輩!」だった。

「“押忍、先輩!”の女」は2ヶ月もしないうちにバイトを辞めた。

理由は知らない。なにか気に食わないことでもあったのだろうか。最後までわけがわからない女だった。

『G.I.ジェーン』を観た。

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アメリカ海軍情報局に所属するデミ・ムーア演じる主人公が、ひょんなことから海軍所属部隊の訓練プログラムに参加することになる。自分以外は汗臭い男のみという環境の中、連日繰り広げられる鬼教官役のヴィゴ・モーテンセンによる猛烈なしごきに加え、ほかの訓練生からセクハラを受けるなどの過酷きわまる日々を送るデミだったが、幾多のミッションを男勝りの根性でクリアしていき次第に周りからの信頼を勝ち取っていく。

まあ、ほぼ事前の予想通りの展開だったが、いいね! わかっちゃいたが胸が熱くなった。

スキンヘッドに筋骨隆々の肉体を晒しながら訓練に立ち向かうデミ。さすがに「押忍、先輩!」というセリフこそ出てこなかったが、まさに体育会系、気合たっぷりの熱演ぶりで、実生活でも溜まってるものがあったのか

「女だからってナメるんじゃねーよ!」

と、世の男どもに訴えてるかのようでもあった。

熱演ぶりではヴィゴ・モーテンセンも負けてない。

終始鉄仮面のごとき表情でデミを徹底的にしごきまくるという、視聴者からすれば言わば憎まれ役だが、最後の最後に一瞬見せるデミへの惜別と賛辞が入り混じったような笑顔がじつにすばらしい。まあ、ここいらへんも定石といえばあまりにも定石すぎる展開だったが、いいものはいい。ほっこりした。

それにしても、シャワー室で全裸のデミと会話するシーン。男なら誰しもがモッコリせざるを得ない状況であってもあくまでも賢者モードで鉄仮面を貫き通す鬼教官ぶりに感心した。

事前に一発抜いてたのか。はたまた体育会系ならではの気合で乗り切ったのか。

「エロに耐えてよくがんばった! 感動した!」

という元総理の名台詞をもじった言葉を思わずかけたくなったのは俺だけではあるまいと思ったが、たぶんそんなしょーもないことを考えてるのは俺だけだろうなと思い直してとりあえず反省した。