どうやら世間には「犬映画」と呼ぶべきジャンルがあるらしい。
『101匹わんちゃん』『南極物語』『HACHI 約束の犬』『わさお』……もちろんちゃんと調べれば、まだまだこんなもんじゃないだろう。
俺はそんな犬映画をこれまでなんとなく敬遠してきた。
「まあ、どうせ犬がなんだかいろいろ大活躍して、犬のおかげでぎくしゃくしていた家族の絆が深まったりとかしつつ、最終的には生きることの素晴らしさなんてのを説く類の、いわゆる感動映画でしょ?」
という感じで、正直、そんなものには興味がなかったからだ。
まあ、たしかに犬は可愛かろう。
とはいえ、犬は所詮、犬だ。
犬なんて、そこいらじゅう、掃いて捨てるほどいるではないか。ましてや、家族の絆の大切さだとか生きることの素晴らしさだとか、なんで犬にわざわざ教えてもらわなければならないのか。
ちょっと食い物もらったぐらいでどこの馬の骨ともわからない輩にほいほい付いてったり、暇さえあれば他の犬の肛門クンクン嗅いでいるような奴で感動したかねえよ。犬ごときに人間のなにがわかるんだ。
まあ、ちっぽけなプライドと言えばたしかにそのとおりなのかもしれない。
第一、逆に「お前に犬のなにがわかるんだ」と、犬に反駁されたら、返す言葉が見つからない。
犬よ、正直スマンかった。
犬相手だって、ときには素直に謝ることも必要だと思う。
そういうわけで、今回は反省の意味を込め犬映画を鑑賞した。
『myベスト・フレンズ』(原題『Eyes of an Angel』)という映画だ。
主要キャストは、妻に先立たれた悲しみから定職にも就かず酒に溺れる日々を送る父役のジョン・トラボルタ。そんなダメ父であるトラボルタとの仲がぎくしゃくしている小学校低学年くらいの娘。さらにトラボルタ妻の弟で、ダメ父トラボルタから姉の忘れ形見である娘を略奪しようと目論むチンピラまがいの義弟。そしてもちろん犬(ドーベルマン)。
当然、犬のおかげで父は断酒に成功し上手い具合に就職先も見つかって娘との仲も円満になったうえ近所の犬好きの女性と再婚、犬嫌いの義弟はそんな光景を見るにつけ娘を略奪することを諦めハッピーエンド、というふうに話が転がっていくもんだと思っていたが全然違った。
というか、犬、ほとんどなにもしてない。
この犬がなにをしているのかといえば、闘犬の試合で負かされ廃工場で瀕死の状態でいるところを偶然通りがかった娘に介抱され食事を与えられる。恩義を感じた犬は、立ち去る娘を追いかけやがて娘の住居を確認、勝手に家に上り込むが貧乏職無しの父子家庭では飼えぬということで捨てられる。それでも諦めきれない犬は、遠い土地へと引っ越した父子を捜索する旅に出発。長い道中、余所の飼い犬の食事を盗み食いして体力温存を図ったりしながら、なんとか父子を発見。結果、強引に飼い犬になることに成功する。
「ほぼこれだけ」と言っていい。
ようするに、弱っているところを介抱されタダ飯を食らった挙句、ストーキング行為と盗み食いをしただけである。とんだバカ犬である。
まあ、ただそこは腐っても犬映画、犬が活躍し感動、みたいな、いかにもそれっぽいシーンだってないではない。
クライマックス、娘をどうにか奪おうとチンピラ義弟が送り込んできた凶暴犬との対決シーンがそれだ。
にしても、最終的に義弟が娘を諦める理由、「犬が怖いから」には笑った。
選択が間違ってしまったこともあろうが、いずれにしても犬映画で感動するという行為は俺にとってハードルが高いことを実感した。