タコ、イカ、ワニ、クジラなどのライバルたちを尻目に長年海洋パニック映画界のトップの地位に君臨しているのがサメだ。
サメを一躍スターダムな存在にした作品といえば言わずと知れた『ジョーズ』であるが、その後も雨後の筍のごとく大量のサメ映画が製作・公開され続けているのにはもちろん理由がある。
まず、なんといってもヴィジュアル的に迫力がある。図体がデカくてインパクトがあるし、歯を剥き出しにしたフォルムは凶暴そのものだ。それでいてタコやイカなどのようなグロっぽさがないヴィジュアルなので万人に受け入れられやすい。じつに使い勝手のいい人材、もとい「魚材」、それがサメなのである。
しかも人間の役者と違ってギャラを一切要求してこない。売れっ子のスターになってもけっして鼻を高くしてふんぞり返ったりすることもない。空から降ってきたり(『シャークネード』)、頭をふたつにされたり(『ダブルヘッド・ジョーズ』)、スーパーマーケットの中で人を襲ったり(『パニック・マーケット』)、ムチャな要求にも素直に応じてくれるその姿勢はまさに役者の鏡と言えるだろう。
で、『ビーチ・シャーク』は、砂浜の中を泳ぐサメが人間を襲う映画である。
ムチャクチャすぎる設定に唖然とするばかりである。こんな映画を思いつくのは馬鹿か天才だけだろう。
しかし、そんな無理難題としか思えぬ役柄をサメは完璧にこなしていた。役に成りきるための努力を惜しまない姿勢はもはやデ・ニーロ級と言えるだろう。思わず頭が下がるばかりである。
そんな「砂サメ」と対峙するのはブルック・ホーガンだ。アメリカプロレス界のトップスター、あのハルク・ホーガンの愛娘である。
劇中、砂の中を泳ぐサメのメカニズムを懇切丁寧に説明してくれるのが海洋研究学者役の娘ホーガンなのである。ただ、これが何遍見直してもそのメカニズムがさっぱり理解できない。
まあ、当然の話だろう。なぜなら、「細けぇことは気にすんな」の精神で鑑賞するのがサメ映画のルールだからである。
最終的に父ハルクが登場、砂サメどもをアックスボンバーで次々と成敗していくのを期待しながら観ていたが、さすがにそこまでムチャクチャな展開にはならなかった。
ともあれ、『エイリアンVSプレデター』や『ジェイソンVSフレディ』に便乗した、『サメVSホーガン』がいつ撮影・公開されてもおかしくはないだろう。なぜなら、サメ映画の常識はこの世の非常識だからだ。