なんともシュールな奇跡の話

今週のお題「ゾクッとする話」

嘘のような偶然……あるいは、人はそれを奇跡と呼ぶかもしれない。

私はそのような出来事を以前、体験したことがある。

6・7年前の話になる。

その日、私は、都内某所にある某中古レコードショップへ向かっていた。くだんの某中古レコードショップは、邦楽ロックフロア、プログレッシヴ・ロックフロア、ラテン/ブラジル・ミュージックフロアなどといった具合に各階ジャンルごとに売り場が分かれていて、私の目的地は最上階の中古洋楽ロックフロアであった。

で、店の前に到着。

最上階へ向かうため、店舗1F階段横にあるエレベーターに乗った。

後から続いてくる人はいない。「閉」ボタンを押す。

ポチッ。

「すいませーん! 乗りまーす!!」

エレベーターの扉がほとんど閉まりかけたところで外からそんな声が聞こえてきた。

慌てて「開」ボタンを押す。

ポチッ。

ゆらゆら帝国の坂本慎太郎さんだった。

びっくりした。

私はゆらゆら帝国の、そして坂本さんのファンである。

ファンであるミュージシャンの人と、そう頻繁に訪れていたわけではなかった中古レコードショップのエレベーター内で、なんとふたりっきりになった。

……まあ、これだけの話なら単なる偶然、「そこそこありそうな話」と言って良いだろう。

じつは、この日の数日前、私はゆらゆら帝国のライブを観に行っていた。で、そのライブの会場内で販売されていたゆらゆら帝国のバンドTシャツをこの日、着用していた。

そのバンドTシャツは、坂本さんが描いたイラストがプリントされたやつで、いかにも坂本さんらしい、ちょっと不気味な感じのイラストがプリントされたTシャツだった。オレンジ色のかなり目立つTシャツである。

ライブ当日、勢いあまってなんとなく買ってみたけど、冷静に眺めてみるとかなりデザインが奇抜だし、さすがに外で着るのには勇気がいるし、色もすげえオレンジ色だ。超オレンジ色したTシャツだ。

うん……、これは部屋着にしよう。

そう思っていたが、せっかくなので一度ぐらい試しに着て外に出てみるか、と考え直して、思いきって着用・外出。

そんな日に、坂本さんと遭遇した。

これを奇跡と呼ぶのなら断言する。奇跡は起きる、と。

ちなみに私がエレベーターを開けて坂本さんが乗り込んでくる際、その視線が我がTシャツのほうへ行き「あっ……」みたいな顔を一瞬したようにみえた(まあ、目立つTシャツだしわかったと思う)が、声はかけなかった。声をかけられても坂本さんも困るだろうし、仮に声をかけたとしても

「このTシャツ、買いましたあああ!!」

っていうセリフ以外、なに話していいんだかよくわからんのでやめた。

不気味なイラストがプリントされたオレンジ色のTシャツを着た男と、その不気味なイラストを描いた本人が、エレベーターの中で無言で、ふたりっきりのまま最上階まで登っていくという、なんともシュールな奇跡であった。

 

1998-2004

1998-2004