『危険な情事』のなにが恐ろしかったって、女ストーカー役のグレン・クローズの顔が怖いということに尽きる。
なにせ岩みたいにゴツゴツした顔立ちであるし、肩幅だって女子プロレスラー並にゴツいわで、そんなような女が鬼の形相で迫ってくるのだから、もう怖いに決まっている。
で、同じ女ストーカーを題材としているこの『オブセッション 歪んだ愛の果て』である。
これがちっとも怖くない。
理由ははっきりしている。
女ストーカーを演じるアリ・ラーターの顔がまったく怖くないからだ。
グレン・クローズとアリ・ラーター。たしかに、両者の女優としての力量の差が作品の出来に影響を及ぼしているのは間違いないだろう。この『オブセッション~』自体、テンポが悪くていまいち緊張感に欠ける演出面も大いに問題ではある。
しかしストーカーという、もはやありふれた役柄に「怖さ」という説得力をもたらす最大の武器といえば、一にも二にもまず顔だろうと思う。アリ・ラーターは顔が怖くないばかりか普通に綺麗なネーちゃんであり、そんな彼女がトイレやら車の助手席に突然飛び乗ってきたと思ったらやおら下着姿で迫ってくるのである。フツーに羨ましいのである。
まあ、相手が美人だろうがそうではなかろうが、現実におんなじことをされたら怖かろう、とは思う。しかし、羨ましいな、と思われた時点で、恐怖を煽る映画としては失敗である。
というか、よくよく観てみたら、ストーカー役のアリ・ラーターより、ストーカーされる男の妻役であり、終盤、アリ・ラーターへの復讐に燃えるビヨンセの顔のほうがよっぽど怖かった。
さすが群雄割拠の音楽界で世界を代表するディーヴァとして長年君臨してきた人だけあって迫力が違うと、なんだか感心した次第。
アリ・ラーターとビヨンセの役をチェンジしていれば、この作品の出来もおそらく違ったものになったはずである。
あと、黒人のヒップホップミュージシャンにはなぜか面白い顔の人が多いが、それはまた別の話だ。