ストーカー系で個人的に印象深い作品といえば、なんといってもかつてTBSで放映されたテレビ・ドラマ『略奪愛・アブない女』(’98)が挙げられよう。
制作は、ドラマ性過剰なストーリー展開、大仰な効果音、マンガ的なセリフ回しで一世を風靡した大映テレビ。ストーカー役は鈴木紗理奈で、ストーカーされる側は赤井英和だ。
実際は関西出身である両者が標準語、いわゆる関東弁をしゃべくる設定だったわけだが、とにかくこの赤井英和がもの凄かった。
「やめたまえ、スズちゃん!(←鈴木紗理奈演じる女ストーカーの役名)」
そんなようないかにも作り物じみたセリフを、来日してまだ日も浅い時期に馴れない日本語を一生懸命しゃべくる外国人のごとくグダグダきわまりない関東弁を披露する赤井英和は、かつて迷曲『マッチョドラゴン』において壮絶極まりない歌声を披露した藤波辰巳を彷彿とさせる珍妙な世界観を物語中に図らずも現出させていたものだ。
とりあえずあのドラマで怖かったのはストーカー役の鈴木紗理奈ではなく、間違いなく赤井英和のほうであった。
女ストーカー役にグレン・クローズ、ストーカーされる側にマイケル・ダグラスを配した『危険な情事』。もちろん、マイケル・ダグラスがグダグダな関東弁を披露するなんてことはなく、そういう意味での怖さはないが、とりあえずグレン・クローズのストーカーっぷりに死ぬほどの恐怖を味わえる作品である。
なんといっても見た目が怖い。女とは思えぬほどの広い肩幅が印象的な身体がまずゴツくて怖いし、顔もまた尚さらゴツくて本当に怖い。もう顔面「岩」という感じであり、おまけにばっちりケツアゴだ。暗がりでいきなり遭遇したら普通に死ねるレベルだと断言していい。
そんな顔面凶器の持ち主グレンが昼夜問わずの電話攻勢やら手首を切ったりの自傷行為やら包丁を振り回したりやら、とにかく執拗に追いかけまわしてくるのだから、あまたの作品でプレイボーイを演じてきた百戦錬磨のマイケルもさすがに弱りきった様子。しかも、一晩限りの関係だったつもりが子供まで孕ませてしまい、
「やっぱ、スポーツ観戦とセックスの醍醐味は“ナマ”だから、つい……」
と、うっかり八兵衛を気取ったところで後の祭りである。
すかさず警察に相談しに行ったものの、「実際に事件が起こらないと、こちらも動けない」と返され、仕方がないので妻子に打ち明けようと考えてはみるが、己の下半身が原因なだけになかなか切り出せず涙目のマイケル。もうこうなったら北朝鮮あたりに亡命して別の人生を歩むか、破滅覚悟でストーカーのグレンを殺す以外、打つ手がないという感じだ。
ストーカーしたこともされたこともないのでよくわからないが、まあ、ようするにナメられているということなのだろう。
というのは、もし相手がヤクザのような「怖い人」だったら、ストーカーもさすがにビビってしつこく追いかけまわしたりしてこないだろうからだ。
「なので、ストーカー被害に遭っているみんなは、ヤクザになろう!」
というのはまあ、さすがに極論であろう。
ヤクザになったところで、ストーカーの被害に遭うのと同等のきわめて過酷な生活を送ることになるのは火を見るよりも明らかだからである。
「目に目を、歯には歯を、ストーカーにはストーカー」だ。
たとえばストーカーが「会いたいの」とひっきりなしに電話で懇願してきたら、その倍、電話をかけまくろう。2分置きに切ってはかけるを繰り返すくらいが丁度いいだろう。手首を切って泣きついてくるストーカーには、負けじと金玉切り落として「別れてほしい」と泣きつこう。
大体、普通の格好でいるのがよくない。
モヒカン頭、かつブリーフ一丁&ソックスという格好で、左手にバラを持ちながらハーレーでストーカーの自宅に押しかけ、三日三晩寝ずに説教をかますぐらいの気概が必要とされるところだ。
ここまでやれば、
「ああ、こいつはとんでもない輩を相手にしちまったな」
といったふうに、ストーカーも勝手に手を引いてくれるだろう。
みたいなムチャクチャな映画、あったら観たいものである。
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