CDレビュー:『西部警察PARTⅠVol.1~コンクリートウエスタン・みんな誰かを愛している』‐「やさしい歌声」を一切聴くことができないオリジナル・サウンド・トラック

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戦後の輝ける大スター・石原裕次郎、及び、彼の率いる「石原軍団」を主要キャストに起用し、刑事ドラマの金字塔としてその名を日本全土に轟かせた『西部警察』。本作はその劇中で使用された音源を収録したサウンドトラック盤なのだが、中身の音源に触れる前に、まず同封のライナーに綴られている文章に私の目は一瞬にして奪われた。

 

サウンドトラック盤として8wのアルバムがリリースされたがいずれも非常に好評を博した名盤であり、今回当時の音源そのまま、8wのCDとしてリリースするものである。

 

そしてこのテレビ映画の中で石原裕次郎歌唱によるテーマ曲として「みんな誰かを愛している」〈S54.9〉「夜明けの街」〈S55.10〉「時間よお前は…」〈S57.4〉「勇者たち」〈S58.3〉「嘆きのメロディー」〈S59.2〉の5作品がシングル・リリースされ、それぞれヒット曲になっている。これらの作品は男、刑事がテーマとなっており、強靭な意志の力を以って事件に当たる刑事達が、ふと、ひとりの人間にもどる時に湧き出るヒューマンな気持、温かい気持が一環して表現出来た作品であり秀作である。

 

今なお、石原裕次郎は人々に愛され、忘れ去られることなく俳優として歌手として現然と生きている。常識では計り知ることが出来得ないそのアーチストパワーは想像を絶するものがある。

この「西部警察」のサウンドトラック盤を改めて聞きなおすことで大門軍団の面々、小暮課長の活躍が、そしてやさしい歌声が新たに蘇らせるパワーを持った秀逸のCDアルバムである。

 

私は映画及びドラマのサウンドトラックを積極的に購入するほうではないので、こういったライナー文の決まりごとというか詳しい事情みたいなものはよくわからないのだが、おそらくは「石原プロの関係者」が書いたものなのだろう。とにかく、なんというか、この威風堂々とした自画自賛ぶりにライナーを握りしめている私の手は震えた。

そして、

「ひとりの人間にもどる時に湧き出るヒューマンな気持」

という部分は意味が些か二重になっているような気がするし、さらに

「温かい気持が一環して表現出来た作品であり秀作である」

という部分とか、

「やさしい歌声が新たに蘇らせるパワーを持った秀逸のCDアルバムである」

という部分とか、正確な日本語として文法をやや誤ったような一文も綴られているが、というか全体的におかしなところだらけの文章だが(つうか、人のこと言えないが)、そういった問題以前にこのCDに収録されている楽曲のすべては「インストゥルメンタル」なのであって、残念ながら本作では裕次郎及び大門軍団の「やさしい歌声」は一切聴けないのである。

いずれにしても、「男」「酒」「任侠道」という、まさに昭和という波乱の時代を壮絶なまでに生き抜いた真の男たちの並々ならぬ豪気的心情が、すべての楽曲にまざまざと刻印されている本作品。この殺伐とした空気に支配されてしまった平成という現代社会を生き抜くための指針・教科書として、今こそ後世に語り継いでいくべき作品なのではなかろうかと私は痛感しているのだが、なかろうかと痛感していてもどうなりもしないのだから人生は虚しいものだ。

【全曲解説】

①西部警察メインテーマ・TVサイズ ★★★★

ドラマの主題歌として名高き、お馴染みのテーマ曲。悠然とした足取りで歩むようなテンポ、色鮮やかなギター・ソロが、レイバン的なかっこよさを見事に演出している。惜しむらくは、TVサイズ用に短く編集されたヴァージョンであるため、やや食い足りなさが残るところか。

②西部警察メインテーマⅠ・フルサイズ ★★★★★

と、思っていたのも束の間、先ヴァージョンより1分以上長い正規フルサイズ版がこちらにしっかりと収録されているのだから、天に向かってガッツポーズを掲げたい気分になろうというものだ。

③みんな誰かを愛している ★★★★☆

御大・石原裕次郎の大ヒット・ナンバーをインストゥルメンタルにアレンジした楽曲。クラプトンも土下座してひれ伏すであろう、三日三晩むせびにむせび泣きはらしたかのようなギター奏法に、人生の侘しさ、儚さを喚起させられる。

④男たち・愛のテーマ ★★★★

なんとも大らかなトランペットの音色が、まさに「男」と「愛」を感じさせるナンバー。

⑤小暮刑事のテーマ ★★★★☆

トランペットが優雅に鳴り響くジャジーなナンバー。煌びやかな華麗味と尋常ならざる緊迫感を同時に醸していて、眉間に皺を寄せて考え込む小暮(裕次郎)の残像が瞬時に浮かんでくる。

⑥コンクリート・ジャングル ★★★

なんかリコーダー、みたいな、なんだかよくわからない音色が、なんだかじつに楽しげなナンバー。

⑦追跡のテーマ ★★★☆

男なら誰しも「自分の足で逃亡中の犯人を追跡してみたい」と思うものだが、現実にはむろんなかなか経験できるものではなく、というよりそれは警察に任せるべきなのであって、まず叶わぬ夢と言っても過言ではあるまい。しかし、もう大丈夫だ。なにしろ、この楽曲を聴いているだけで犯人を追跡している気分になれるからだ。なにが大丈夫なのかよくわからないが。

⑧ロマン ★☆

言わずもがなロマン的なベースがじつに心地よいのだが、やや地味で印象に残らず、残念だ。

⑨西部警察メインテーマⅡ ★★

言うに及ばず主題歌M1~2を牧歌的にアレンジしたナンバーなのだが、やや素っ頓狂な感が否めず、とにかく、やっぱり、残念だ。

⑩大門刑事のテーマ ★★★★

壮大かつ幻惑的ですらあるストリングスが、まさに大門(哲也)という人間味深い人物を見事なまでに映し描いている、なんとも団長的な佳曲。

⑪明日への希望 ★★★★

艶めかしいトランペットの音色にガマン汁じっとりのナンバー。

⑫出動のテーマ ★★★☆

躍動感溢れるホーン・セクションによって否応なく出動せずにはいられなくなるナンバー。

⑬兄妹 ★★☆

題名どおり、おそらくは大門と妹(古手川祐子~役名忘れた)の関係性を音で表現したと思しきナンバー。たしかに兄妹の愛的心情が遺憾なく表現されてはいるが、ちょっと物足りないのも事実。なんというか、もっとアナルセックス的な卑猥感を表現できていたら現代アートの大曲として評価されていたのに…と思え、残念で堪らないのだ。個人的な趣味で恐縮です。

⑭ダイナミック・シチュエイション ★★★★☆

切れ味鋭いギター・カッティングとリズミカルなピアノのコンビネーションが、じつにダンサブル。きっとドラマ放送当時の若者たちもこの楽曲をディスコで一晩中流しながら夜明けまで踊り狂ったことだろう(知らないが)。

 

総評(レイバンに敬意を表して)★★★★★