『SPRIMGMAN』はユニコーン版『Abbey Road』だったのでは、という話

前々から感じていたことだが、ひさびさにユニコーンの解散前にリリースされたラストアルバム『SPRINGMAN』を聴いていたら、

「これはビートルズで言うところの『Abbey Road』ではないか?」

という思いがますます強くなった。

SPRINGMAN

SPRINGMAN

  • アーティスト: UNICORN,手島いさむ,堀内一史,奥田民生,阿部義晴,川西幸一
  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックレコーズ
  • 発売日: 1995/12/13
  • メディア: CD
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アビイ・ロード(紙ジャケット仕様)

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はたしてどういうことなのか。もうすでに誰かが指摘しているのかもしれないし、あるいはまるで見当外れな意見であり馬鹿だのアホだの死ねだのクソでも食っとけだの言われるかもしれないが、一応根拠を書いてみる。

ユニコーンは1986年に結成されたロックバンドで、メンバーは奥田民生(ヴォーカル&ギター)、手島いさむ(ギター&ヴォーカル)、EBI(ベース&ヴォーカル)、阿部義晴(キーボード&ギター&ヴォーカル)、川西幸一(ドラムス&ヴォーカル)の5人だ。1993年に解散したものの2009年に再始動を発表し、現在も活動している。

で、問題の『SRRINGMAN』であるが、前述の解散前にリリースされた「ラストアルバム」である。

ユニコーンにはほかのロックバンドにはあまり見られない特異な点がある。

それは、メンバーがみな曲を作れるうえに歌も歌える、というところだ。

おなじ特徴を持つビッグなロックバンドが洋楽にも存在する。そう、ビートルズである。

ビートルズは『Abbey Road』という歴史的な名盤を最後に録音して解散したが、『Abbey Road』にはバンドのフィナーレを飾るに相応しい華々しさというか、

「いろいろゴタゴタしちゃったんでもうやめることにしたけど最後はきちっと締めるぜ」

みたいなムードが充満しており、であるからこそ名盤だらけのビートルズの作品の中でも特別な魅力が感じられるアルバムとなっている。

そして、本作『SRRINGMAN』にも『Abbey Road』似たムードが感じられる。

奥田民生といえばビートルズをこよなく愛する人間である。もしかしたらそこまで狙っていたのかもしれない…そう思わずにはいられない作風なのである。

まず、奥田民生の楽曲だ。

いきなりなアゲチン宣言をかます爽快なロックチューン「与える男」でアルバムの幕が上がると、重量感のあるサウンドとは対照的に風俗嬢とその客を二人称の視点でユーモラスに描いた「時には服のない子のように」で聴き手を脱力させる。ヘヴィでささくれだったサウンドが展開される中、音楽業界への不信を訴えているかのような「スプリングマンのテーマ」も聴きごたえたっぷりである。

つまり、「与える男」は「Come Together」で、「時には服のない子のように」が「Polythene Pam」で、「スプリングマンのテーマ」は「I Want You(She's So Heavy)」であり、役割的にはジョン・レノンである。

なにより秀逸と言うべきは、やはり「すばらしい日々」である。

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瑞々しいポップ性とひどくもの悲しい感じ、という相反する魅力を併せ持った曲で、友との別れ、いつかやってくるかもしれない再会への願いが込められた名曲中の名曲だ。

この曲は本作制作途中に脱退した川西幸一への思いを綴った楽曲と言われている。その後バンドは再結成し奥田民生と川西幸一の仲は雪解けしただけに、いま聴くとなおさら感動的に聴こえるナンバーである。

ほかのメンバーの曲も良い。

手島いさむ作ユニコーン版4畳半フォーク「オールウェイズ」は、ジョージ・ハリスンの「Something」のような風格を感じさせる。どこかとぼけた味わいのある川西幸一のポップロック曲「素浪人ファーストアウト」は、リンゴ・スターの「Octopus's Garden」である。

奥田民生がジョン・レノンなら、ポール・マッカートニーは阿部義晴だろう。

ボサノヴァ調の流麗な「アナマリア」、さらに青年から大人、つまりバンドの一員から独立した個人の道へと踏み出すことへの不安と希望を綴ったピアノバラード「月のワーグナー」というこのうえなく美しい楽曲を提供をしている。とくに後者の世界観は「Carry That Weight」と完璧にダブる。

そしてアルバムはEBIのポップな小品「8月の」で締め括られている。これは、「Her Majesty」であり、やはり『Abbey Road』である。

全体的にバラエティに富んでおり、それでいてこれは何事かと思えるほどの不思議な統一感がある。いざこざがある中、それでも最後の最後にメンバー同士が手を取り合ったからこそだろう。まさに『アビイ・ロード』を彷彿とさせる、バンドの有終の美があますところなく体現された名盤である。