とてもかっこいいことをしたはずなのになんだかものすごくかっこ悪いという状況

親切にもいろいろあるが見返りを求めない親切こそが究極の親切と呼べるのではないか。

なんとなくそう思う。

家族やふだんから親しくしている人への親切は究極の親切とは言えない。なぜなら、たとえ親切をした本人が望んでいなくても、親しい間柄である以上、自ずと相手から見返り的な行為をされることが往々にしてあるからだ。

「素性はおろか名前すら知らないアカの他人への親切」

これこそが究極の親切だと断言したい。

たとえば、街中で道を訊かれて懇切丁寧に教えてあげたりだとか、もっと大掛かりな話だと瀕死の状態で倒れている人を偶然見かけて救急車を呼んであげたりだとか、大なり小なり読者のみなさんも経験したことはあるだろう。

あなたはやさしい人だ。究極の親切を施した経験がある、とてもやさしい人だ。

謙遜などしなくていい。あなたはやさしい人だというのは私はわかっている。なぜなら、こんな不人気ブログをわざわざ読んでくれている人は皆やさしい人に違いないからだ。

もちろん、こんなふうにやさしい読者の方々にやさしい言葉を投げかけている私も漏れなくやさしい男だ。アカの他人への親切経験は枚挙に暇がない。というか、なぜだかわからないが私の場合、やたらとそのような状況に出くわす。

街中で道を訊かれるのは日常茶飯事。あるときなどは、カタコトの日本語をしゃべる中国人に道を訊かれ、自分が今どこにいるのかさえわからないというので、仕方なく2キロ近く一緒に歩いて目的地まで案内してあげた。

「あの、すいません! ここらへんにカギ落ちてなかったですか?!」

やはり街中で突然若い男にそう声をかけられて、5分ぐらい一緒にカギ探しを付き合ってあげた、なんてこともある。

いや、しかし、もっとも印象深く私の記憶に残っている究極の親切といえば以下の話だろう。

2002年11月4日のことだ。

なぜ日付まで正確に覚えているのかというと、その日は駒沢大学でナンバーガールのライブが行われたからで、ライブの半券を現在も所持しているからである。

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「NUM・無常の旅」と題されたこのツアーをもってナンバーガールは解散することになっていた。

バンドが解散するという報は、ツアー直前にバンドの公式ホームページ上で突然リリースされた。幸いにも私はその数週間後にZEPP TOKYOで開催される関東ラスト公演のライブチケットをゲットしていたが、駒沢大学でのライブは、ラストまでにもう一回、ナンバーガールを生で観られるまたとない機会である。当然チケットはすでに売り切れていたが、いてもたってもいられなくなっていた私は、とりあえず行ってみようということで駒沢大学へ足を運んだのだった。

当日はテレビのADがカンペ用に使うような大きな画用紙、それに「チケット譲ってください」とマジックで事前に書いて持っていった。いまはSNSなどを使って個人間でチケットを譲り受けたりすることは容易にできるのだろうが、当時のチケット確保の最終手段といえばこれだった。

ちなみにこんなことをやったのはあとにも先にもこのときの一度きりである。

「もう永久に観られなくなるナンバーガールのライブをとにかく観たい」

という、その一心だった。

「PM5:30開演」と半券には記されている。記憶は定かではないが、おそらく昼過ぎには駒沢大学の前に到着したはずだ。

で、駒大前に到着してまもなく、「チケット譲ってください」と書かれた画用紙を私はぎこちなく手に取り天高く掲げながら声がかかるのを待った。ほかのライブを観に行った時に誰かがやっていたのを見よう見まねでやってみたわけで、「こんなんでチケットが手に入るのか?」と半信半疑だった。じっさい、ライブ会場に向かって続々と人がやってきているものの、突然のラストツアーとなりプラチナ化したチケットをそう簡単に譲ってくれるはずもなく、時間は刻々と過ぎていった。

1時間ほど経ったころだろうか。近くで所在無さげに佇んでいる若い男が視界に入った。

たぶんこの青年もナンバーガールを観に来たのだろう。

なんとなく声をかけたみたところ、私と同じようにチケットを持っていないがやはりいてもたってもいられずやってきたという。なんと年齢もおなじとのこと。ナンバーガールのこととかなんとなくダベっているうちに、成り行き的にいっしょにチケットを譲ってくれる人を待つみたいな流れになった。

「あの~、チケットありますけど」

突然だった。少し年上っぽいおにいさんだった。ツレの人がこられなくなったので譲ってくれるという。しかも代金は定価と同じ値段でいいとのことだ。

これはぜひとも譲ってもらおう。うん。そうすべきだ。

結局、一緒に待ってたやつに譲ってあげることにした。

というのは、彼が「ナンバーガールのライブは一度も観たことがない」とダベっている最中に口にしたのを訊いてしまっていたからである。

「ま、まあ、数週間後にZEPPで観られるし……」

正直、ものすごく葛藤したが、譲ることにした。もちろんいま知り合ったばかりのアカの他人なので、見返りなどあるはずもない。

これこそが私の生涯におけるベストオブ親切である(ちなみに上の写真のとおり、チケットはそのあとに声をかけてもらった人に定価で譲ってもらって無事ライブを観ることができた)。

どうだろうか。つうか、もしかしたら超かっこいいんじゃないだろうか、私。

たぶんあの光景を北川景子が見ていたら私に惚れていただろう。

「負けたよ。景子はおめえのもんだ」

DAIGOだってきっとそう言うはずだ。

ついおとついも私はとても親切なことをした。

その日、私は、仕事帰りにとある街に寄った。帰宅ルートからは完全に外れた街だが、私はあるものが欲しくて、そのとある商品を売っているお店がその街にあり、で、ついでに帰りに駅前にある餃子の王将で夕食を済ませていこう、ということで寄ることにしたのだ。

さて、くだんの店でお目当ての商品を手に入れ、その後、王将での食事も目論見どおりに済ませた私は、家路につくためバイクが停めてある駐輪場に向かった。

その道中、一組の男女が目に留まった。

男女といっても男のほうは70ぐらいのじーさんであって、女は40半ばぐらいのおばはんだ。じーさんが父で、おばはんは娘さんだろうか。なんだか知らないが、じーさんはゼーゼーハァハァと苦しそうであっていかにも具合が悪そうであり、おばはんの肩を借りてどうにか歩いている。どうやら数十メートル先にある駅ビル内の病院へ連れて行こうとしているらしい。

「ほら、もうすぐだから! しっかりして!!」

おばはんが一生懸命じーさんに声をかけている。まあ見るからにたいへんそうだ。

どうにも見ていられず声をかけた。

私「あの、よかったら手伝いますが」

おばはん「あっ……、す、すいません! お願いします!!」

じーさんの左肩をおばはん、右肩を私が背負いながら駅ビル内のエレベーターまで連れて行ってあげた。

おばはん「ありがとうございました!」

私「いえいえ。それじゃ!」

どうだ。えらいだろう。

まあ、これで右手にぶら下げていたビニール袋の中身が買ったばかりのエロDVDじゃなければ完ぺきだったのだが。

「とてもかっこいいことをしたはずなのに、なんだかものすごくかっこ悪い状況じゃないか、これは……」

こんなんだから私がモテるはずがないのだった。

あーあ。