昔、ビートルズを特集していた洋楽雑誌(たしか『クロスビート』だったと思う)を読んでいたら、「ビートルズでもっとも多くカバーされている曲」という項目があり、それがなんの曲であったのかというとなんと「サムシング」であって、びっくりしてしまったことがある。
たしかに「サムシング」といえば、ビートルズの実質的なラストアルバムである『アビイ・ロード』に収録されているジョージ・ハリスン作の名曲である。私自身、大好きな曲でもある。ただ、ビートルズでもっとも多くカバーされている曲は、おそらくポール・マッカートニー作の「イエスタデイ」か「レット・イット・ビー」か、もしくはジョン・レノンの作った曲だろうと思っていたので驚いてしまった。
「イエスタデイ」や「レット・イット・ビー」じゃベタすぎるし、かといってジョン・レノンの曲をカバーしたところでオリジナルを超えることはまず不可能だろう……ということで、結果的に「サムシング」が多くのミュージシャンにカバーされることになったのだろうか。
まあ、もう20年近く前のデータなので、いま調べたらまた違った結果になるのかもしれないが、いずれにしても多くのカバー曲が生まれる根本的な要因として考えられるのは、やはり原曲自体がカバーしたくなるほどの「名曲」である、ということだろう。
ちなみに私のiPodにもっとも多く入っているカバー曲はなにかというと、言わずもがなの大名曲である、あの「Can't Take My Eyes Off You」である。
とにかく、私のiPodにはこの曲のカバーがやたらと入っているのだ。べつに意識的に集めたわけではなく、気づいたらそうなっていた。
ちなみにオリジナルは1967年にリリースされていて、歌っているのはフランキー・ヴァリという人である。
リリースから50年近く経っている曲だが、終始一貫して展開される夢見心地なメロディ、そしてなんといっても長尺の間奏からサビへと突入していく箇所での高揚感といったらもうたまらんものがある。まさに名曲中の名曲である。
そこで、今回の「iPodをシャッフルして出てきた5曲を語ってみる」は恒例の番外編として、「Can't Take My Eyes Off You(邦題「君の瞳に恋してる」)」のカバー5曲を取り上げ語ってみようと思う。
Boys Town Gang「Can't Take My Eyes Off You」
まずは1982年にリリースされたこちらのカバーから。当時、日本でも大ヒットしたらしい。じっさい、私はそのころまだ小さなお子ちゃまだったのだが、テレビ等でやたらと耳にしたのを覚えている。じつはつい最近までこれがオリジナルだと勘違いしていたのは内緒の話だ。いかにも80年代っぽいディスコ調のお気楽なアレンジが施されていて、いま聴くとちょっと赤面してしまう部分もないではないが、曲自体が良いので全然聴ける。しかしそれよりも、ヴォーカルを担当している黒人女性はなんら問題ないが、両脇の男性ダンサー2名がなぜかやたらとゲイゲイしいのが気になって仕方がなかったりする。
Muse「Can't Take My Eyes Off You」
英国を代表するロックバンド、ミューズのカバー。ギター&ベース&ドラムスというシンプルなロックサウンドであって、シンプルだからこそ曲本来の魅力がよりストレートに味わえる名カバーである。ジャキンジャキンと金属的に鳴り響く鋭角的なサウンド、マシュー・ベラミーの伸びやかなヴォーカルが高揚感をひたすら煽る。もともとミューズはドラマティックな楽曲をお家芸としているので、カバーではあるがオリジナル曲だとして聴いてもまったく違和感のない出来に仕上がっている。いつか観に行ったフジロックでこの曲を演奏したときはオーディエンスが興奮の坩堝と化したのをいまでもはっきりと覚えているし、個人的にももうマジで感動した。
椎名林檎「君ノ瞳二恋シテル」
若いころの椎名林檎特有の「アタシ歌ウマいでしょ?」的な自意識過剰な感じが若干出すぎている気がしないでもないが、ノリの良いアレンジがいいと思うし、あと、「君ノ瞳二恋シテル」ってなんでわざわざ邦題をカタカナにしているのか気になるっちゃ気になるが、とはいえ小気味よいバンドサウンドもいいと思うし、まあ、最終的に何が言いたいのかというと、とくべつ気に入っているってわけではないがとくに嫌いというわけでもない。
小島麻由美「君の瞳に恋してる」
こちらは昨年リリースされたカバーアルバムのラストに収録されている小島麻由美のカバー。ホーンやストリングスが加わったビッグバンドふうの豪華絢爛なサウンドでありながら、胃もたれするような過剰さは一切ない。随所で鳴り響く手拍子もじつに効果的で、この曲ならではの高揚感を感じさせながらもいい意味でさらりと聴ける。
Lauryn Hill「Can't Take My Eyes Off Of You」
ローリン・ヒルの大ヒットアルバム『The Miseducation of Lauryn Hill』に収録。いかにもR&B系ミュージシャンらしいコーラスやヒップホップふうのアレンジが施されており、じつにシャレオツ感満載なカバーである。ちなみに、このローリン・ヒルのカバーだけなぜか「Can't Take My Eyes Off “Of” You」というタイトルになっている。英語がさっぱりな私にはなにがなんだかわからんが、そんなことはどうでも良いと思えるぐらいの名カバーである。で、こんだけ書いといてアレですが、じつはフランキー・ヴァリのオリジナルバージョンはiPodに入れてないのであった……。
以上です。また気が向いたら通常どおり続きを書くか、今回と同様に番外編としてなにかしら関連する楽曲を何曲かピックアップした内容の記事を書くつもりです。