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おまえのAVは預かった。早く引取りに来い。

今週のお題ゴールデンウィーク2016」

ゴールデンウィーク真っ只中のある日、友人のA君と会うことになった。

A君は2年前に結婚、その後、子宝にも恵まれた。独り身の俺とは違ってなにかと忙しく、当然独身時代のように自由がきかない。また、俺が住んでいる町からはそこそこ遠方の都内某所のマンションに住んでいる。そんな理由もあって、およそ1年ぶりの再会となった。

ひさしぶりの再会を果たし、お互いの近況についてあらかた話をした直後、突然A君がわけのわからぬことを言ってきた。

「で、さあ。……じつはおまえにちょっと預かって欲しいものがあってさ…」

「え? なに? なにかヤバいモノかなんかか? なんなの?」

「まあ、ヤバいといえばヤバいんだけど…」

「だからなんなんだよ、それは」

「いや……エロビデオなんだけど」

「はあああああああ?」

A君は俺の住んでいるところのすぐ近くの町のマンションに引っ越してくることになったという。そこはA君の嫁さんの実家がある町であり、嫁さんからしたら育児をする際、困ったときがあったときなどには近くに住む実の両親に気軽に頼ることができる。なので、こっちのほうに来ることになったという。

「というわけで、またちょくちょく遊びに来るから。よろしくな」

笑顔で語りかけてくるA君。

まあ、それはいい。俺んちの近くだろうがインドだろうがネパールだろうがどこでも好きなところに住めばいいさ。で、なんでおまえのエロビデオを俺が預からなきゃならないんだ。

「いや、それがとにかくいっぱいあってさ。嫁さんにバレたらまずいんだよ」

「でも、いままで隠せてたんだろ?」

「ああ。風呂場の換気口の中に隠してある」

「だったら、またおんなじように隠せばいいじゃねえか」

「それが今度のマンション、換気口が狭いんだよ。ほかに隠せそうなところもないし……」

「そんなにあるのか」

「ああ」

まあ、知ってた。

A君はいわゆる「蒐集家」だ。とにかくモノを大量に持っている。いや、持っていた。

AV。洋服。靴。時計。CD。マンガ本。サッカー・プロレス・ファッション系等の雑誌。サッカーのユニフォーム。サッカー選手のフィギュア。

独身時代、働いて稼いだ金でそれらのモノをそれこそ山のように大量に買い込んでいた。しかも、それらを捨てたりや売ったりもけっしてしない。俺もCDや映画のDVDや本やAVはそれなりに持っている人間だと思うが、A君は次元が違う。第一、俺の場合、飽きたり「コレはいらないな」と思ったモノは躊躇なく捨てるなり売るなりする。

俺が独立リーグの4番打者ならA君はメジャーリーガー。たとえるならそれくらい違う。

当然、A君が独身時代に住んでいたマンションの部屋は足の踏み場もないほどモノで溢れかえっていた。

とくに驚いたのはトイレの中に大量の靴の空き箱が所狭しと積み上げられていたことだ。

「なんだよコレ。なんで捨てないんだ」

「いや、自分で一生懸命働いた金で買ったものだからさ。捨てられないんだよね」

「いやでもこれ空き箱だろ。捨てろよ」

「まあ、大切な思い出だし……」

万事がこの調子であった。

ちなみにAVも「ケースごと持っている」と言ったので、さすがにそれは処分させた。賢明な男子ならおわかりだろうが、AVのケースなんてあんなもん、かさばって無駄に場所をとるだけである。CDならケースごと部屋に飾ってシャレオツ感を演出、なんてこともできるが、さすがにAVを部屋に飾る馬鹿はいない。AVなんて中身のディスクさえあればいいじゃないか。

「いや、でもこれも思い出だし……」

往生際悪く反駁するA君を何度も説得し、本人渋々ながらも処分させたのだ。もう随分前の話である。

結婚し夫婦で同居するマンションに引越しする間際、こんな電話をしてきたこともあった。

「『モノが多すぎる』って嫁が怒っちゃってさあ。『引っ越す前に処分しろ』って。もう、たいへんなんだよ……」

「そりゃそうだろ。あんだけありゃそりゃ誰だって怒るわ」

「CDも処分しなきゃならなくてさ。今、パソコンに曲入れてるところ。この作業だけで今日で3日目だよ……」

そう電話ごしから半泣きで語ったA君は「曲も捨てられない」人間だ。

ロック。J‐POP。歌謡曲。洋楽。さらには中古CDショップで安価で売っていたのでなんとなく買った、とくに好きでもないミュージシャンのアルバム。

これらの大量に所持しているCDに収録されている「すべての楽曲」が彼にとっては「大切な思い出」なのだ。

いくら好きなミュージシャンだろうと気に入らない曲はiPodに入れない俺からすれば信じられない話だ。

よく言えば「モノを大切にする人間」。悪く言えば「馬鹿」。

話が逸れたので本題に戻す。

「今、嫁、子供連れて実家に帰ってるからさ。悪いけど取りに行くの手伝ってよ」

「しょうがねえな。わかったよ」

結局、「なるべく早く隠し場所を確保して取りに来い」という条件をつけて預かることになった。なんだかいいように使われている気がしたが、一時期は毎週のように遊んでいたA君の頼みだ。仕方がない。

車で一時間ほどかけて都内某所のマンションに到着。

部屋に入ると引越しの作業はあらかた済んだようでモノはもうほとんどなかった。

「ちょっと待ってて。今、風呂場から取ってくるから」

ミカン箱サイズのダンボールが7箱出てきた。もちろん中身は大量のAVである。

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懐かしいビデオテープ製のAVやらMDやらが入っていた箱もあったが、それらは処分させ、どうにか5箱になった。

ちなみにA君とは性癖嗜好が違いすぎるので、あらかた眺めてみたが、俺的に「使えそうな」AVはひとつもなかった。

というわけで、今、俺の家には、ミカン箱サイズのダンボール5箱ぶんの「使えないAV」が所狭しと保管されている。

ちなみにA君の実家には、やはり同じミカン箱サイズのダンボール2箱ぶんのAVが保管されているという。

「ごめん。まだ隠すところ、見つかってないんだ。もうちょっと待って」

5日前、A君は電話をかけてきてそう言った。

A君が引取りに来る気配はまだない。 

今、俺が突然死んで誰かが部屋の中を整理しに来たら間違いなく変態扱いされるだろう。その時、A君は責任を取ってくれるのだろうか。