映画『エアフォース・ワン』‐超人ハリソン・フォード-

知人のM君は自他共に認める映画好きの人間である。ハリウッド製映画を中心に、アクション、サスペンス、SF、ホラーなどに加え、『男はつらいよ』のファンでもあり、果ては竹内力の代表作『ミナミの帝王』まで、さまざまなジャンルの作品を新旧メジャーマイナー問わず鑑賞している。話好きで誰に対しても愛想が良く、周囲の人々からの評判もすこぶる良い。そのくせ裏ではギャンブルと女にのめり込み、結果、数百万単位の借金を抱えている一面も併せ持つナイスなクソ野郎だ。

最近はなぜかいまさら韓流恋愛ドラマにはまっているというM君。そんなM君だが、じつはイーストウッドの映画に関しては好みではないという。

「だってさ、イーストウッドって絶対死なないじゃん。敵と対決する場面でも、“どうせ勝つんだろ?”、ピンチになっても“どうせ解決するんでしょ?”って感じで、観る前からわかっちゃうから、おもしろくないんだよね。ハラハラドキドキしないっつーかさー」

主演作(監督のみの作品も含む)のほぼすべてを鑑賞している程度のイーストウッドファンである私だが、正直、そんなことは考えもしなかったので驚いた。

迫り来る敵をコテンパンにしてぶっとばす。どんなに苦しい状況に陥っても立ち向かって乗り越える。

私がイーストウッドの映画に求めているのは、大雑把に言ってしまえば主にその2点であるからだ。

敵にボコボコにぶっとばされるイーストウッドや、苦境に根を上げ欝になってメソメソ泣いてるイーストウッドなんか見たくない。なぜなら、私にとってイーストウッドはヒーローだからである。

しかし、M君のようにイーストウッドのことを特別ヒーロー視していない人からすれば、映画の中で超人のごとく活躍するイーストウッドはひどく現実離れした存在でしかないということなのだろう。なるほどなあ。そういう意見もあるんだなあ。ある意味、目からウロコな意見だった。

ちなみに断っておくと、劇中イーストウッドが死ぬ映画は、私が確認したかぎり3作ある。数多ある主演作の中でたったの3作品ではあるが、一応、敵に敗北したり苦境を乗り越えることが出来なかったりして終わっている作品は存在している。けしてイーストウッドは無敵ではないのだ。

しかし、こないだ観たハリソン・フォードの『エアフォース・ワン』はすごかった。

エアフォース・ワン [Blu-ray]

空軍ジェット機エアフォース・ワンに搭乗中のハリソン・フォードが、 ロシアのテロリスト集団に襲われハイジャックされる映画だ。

ハリソンVSテロリスト集団。ハラハラドキドキはしなかった。ハリソン無双。テロリストたちにとって相手が悪すぎた。

襲いかかってくるテロリストと格闘したうえ、猪木ばりのチョークスリーパーで締め落とすハリソン。べつのテロリストからは銃で撃たれるがなぜかかすりもせず、自分が撃ったらほぼ百発百中の確率でヒットさせる神技を披露。高度4500メートルを200ノットで飛行中、ジェット機後部が爆破炎上し凄まじい爆風に晒されている絶体絶命の状況においては恐るべき腕力で搭乗ゲートにしがみつき、挙げ句の果てにはまったくの初心者であるにもかかわらず瀕死のパイロットに変わりジェット機をいともたやすく操縦し見事生還を果たす。

驚くべきことだ。なにしろ、本作でハリソン・フォードが演じているのは「ごくごくフツーのアメリカ大統領」だからだ。

まあ、大統領を「ごくごくフツー」と表現するのもおかしな話かもしれないが、少なくとも格闘技の達人でも、凄腕のスナイパーでもなければ、アームレスリングの世界チャンピオンでもなく、空軍のエースパイロットでもない。

こんな芸当、オバマにもプーチンにも出来ないだろう。まさに超人である。この男ならばアメリカの大統領どころか宇宙を征服できるに違いない。