以前住んでいた家の近所にテイクアウト専門の海鮮丼屋があった。
前々からこの海鮮丼屋のことが私はなんとなく気になっていた。
というのは、店がオープンしてからもうかれこれ5年以上は経っていたはずだが、客が入っているのをほとんど見たことがなかったからだ。
一体、どういうことなのか。
元が金持ちの人物が経営している、いわゆる道楽商売なのか。
じつは知る人ぞ知る海鮮丼マニア御用達の店で、海鮮丼マニアだけに限定的に売られており、そのせいで、滅多に客の姿を見ることが出来ないのか。
私は海鮮丼マニアではないが、ためしに一度弁当をテイクアウトしてみようと、ある日、恐る恐る店に入ってみた。
店内にはやっぱり客は一人もいなかったが、海鮮丼は普通にテイクアウトできた。
で、肝心の海鮮丼の味であるが、ふつうに美味くなかった。
流行るわけがない。
なにしろ、褒めるべき部分がひとつも見つからないのだ。
全体的になんか生臭いし、海鮮丼マニアが口にしたら激怒するレベルだろう。
客が来ないのも当然だ、と納得した。
で、それから数か月経ったある日のことだった。
件の海鮮丼屋の前を通りがかったら、ショーウィンドウに張り出されていた紙に、こんな文字が躍っていた。
「うどん、はじめました」
はじめるなよ。
いや、まあ、うどんのほうはひょっとすると美味いのかもしれない。きつね、たぬき、天ぷら、味噌煮込み、といったふうに、メニューだって豊富なのかもしれない。
とはいえ、件の店は紛れもなく海鮮丼屋である。
なぜなら、「海鮮丼屋」って、店の看板に堂々と書いてあるからだ。
海鮮丼屋がうどんをはじめてどうする。
100歩譲って、うどんをはじめる前にまずは海鮮丼をどうにかすべきではないか。
ようするに、「力を入れるべきところを間違っている」ということである。まさしく、「典型的なダメな店」と言えよう。
『エア・マーシャル』を観た。
旅客機をハイジャックしたテロリストに、正義漢溢れる航空保安官である主人公が猛然と立ち向かう映画だ。
ようするにありきたりな設定の乗り物系アクション映画であるが、まあそれはいい。ハイジャックされた旅客機の乗客の中に誰ひとり魅力的なキャラクターがいないのも、この際さして問題ではないということにしよう。
が、旅客機が飛行しているシーンで使用されるCGは、さすがにいただけない。
なにしろ、スーパーファミコンレベルと言っていいくらい、ちゃちな代物だ。昭和の時代じゃあるまいし、間違ってもスーパーファミコンでスリルや感動は生まれないのである。
そのくせ、機内のシーンに移るとリアルさを重視したのか、やたらと画面が揺れまくる。画面酔いとかもはやそういうレベルの話ではなく、マジで画面をまともに正視できないほどだ。そりゃ飛行機なんだから、風やら気圧やらの影響で本物もおんなじくらい揺れるんだろうが、あきらかにやりすぎである。
映画『エア・マーシャル』は、そんなふうに力を入れるべきところを間違っている「典型的なダメ映画」であった。
「『エア・マーシャル2』、撮影はじめました」
いつかそんな告知が流されないことを祈るばかりだ。