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映画『ジャンパー』‐とことんリアルに徹した「オールクソ野郎」な映画‐

映画


今回取り上げる映画は『ジャンパー』という作品である。

着心地が良く、それでいてデザイン性に優れたジャンパーを作成することに腐心した、スポーツメーカー社員たちの苦悩と栄光を描いた実録映画、ではない。

いわゆる瞬間移動。

それを劇中では「ジャンプ」と呼び、その能力を備えた人物たちのことを「ジャンパー」と呼ぶ。幼いころに誰もが夢見たそんな能力を突如身につけた青年こそが、本作の主人公である。

この映画のなにがいいって、とにかく出てくるやつらのどいつもこいつもが徹頭徹尾クソ野郎なのがいい。

なにしろ「ジャンパー」となった主人公がなにをするのかといえば、銀行の金庫室に瞬間移動して大金をくすねる。で、さらに、少年時代にいじめられた同級生をその金庫室へ瞬間移動で連れて行き、そいつだけそのまま置き去りにする。

ある日突然、超人的な能力を身につけてしまい、がために、いいことばかりではなく悪いことにもいろいろと見舞われ、苦悩し、そのうち世界征服とかなんかそういうような目的を持った悪党が現れたので、正義のために闘う……というのが、いわゆる「スーパーヒーロー物」の定石であるが、『ジャンパー』の主人公はそんなことはしやしない。

なぜなら、正真正銘のクソ野郎だからである。

とはいえもちろん、主人公の対となる存在、いわゆる悪党っぽいキャラクターは本作にも登場する。

サミュエル・L・ジャクソンをリーダーとする「パラディン」がそれだ。

このパラディンなる組織、世界各地にあまた存在するジャンパーこそが神をおびやかす悪魔であるとし、その能力の持ち主である主人公を抹殺せんと執拗に追いかけまわすのだ。

もちろんジャンパーを消すためだったら、とくにこれといって関係のない一般市民だって平気で殺すこいつらも、主人公同様のクソ野郎であるのは言うまでもない。

それだけに、主人公とサミュエル率いるパラディン、クソ野郎同士が対決する場面ではどちらを応援すべきか迷った。

セクハラエロクソ親父と、飲んだくれアル中クソ親父が対決するようなものだ。

そんなもの、どちらも応援しようがないではないか。

クソ野郎ぶりでいえば、主人公が長年想いを寄せていた幼馴染のヒロインのクソ野郎ぶりにも頭が下がった。

とくに恋人だったわけでもなく、10年ぶりに再会し、数分言葉を交わしただけの相手である主人公と遠い異国への旅へなんの躊躇もなくほいほいとついて行ったうえ、直後、ベッドでともにピストン運動に励むというビッチぶりもさることながら、主人公が持つ能力を知り、いろいろ悪さしてることにもなんとなく感づきながら、とくにそれを止めようともせず、そのうち私は傷ついたとかなんとか言って一方的に別れを切り出してはみたものの、邪魔なパラディンもいなくなりしかもそんな便利な能力身につけてるとあればとばかりに結局ちゃっかり復縁。

で、幸い、銀行のカネをくすねたことは警察にバレていないので、とくに反省も賠償もせず、そのままふたり仲良く破顔一笑で手繋ぎながら、世界各地瞬間移動の旅へゴーてな感じでジ・エンド。もちろんその際は、エンドロール&軽快かつノーテンキなロック・ナンバー付きだ。

これぞまさしくオールクソ野郎だらけのバカ映画である。じつに見事と言うしかない。

突如、身につけた瞬間移動という特殊能力を、私利私欲のために使う。

それが人間というものだ。

悪さする奴らを懲らしめるために使う。

人の助けになることのために使う。

そんないかにもヒーローっぽいことをする正義漢な人も中にはいなくはないだろうが、銀行からカネをくすねたりだとか、嫌いな奴に嫌がらせするだとか、渋谷のど真ん中で車ごと瞬間移動しながら無茶な運転するだとか、劇中のジャンパーたちがやったようなせこい悪事を誰もが一度は実行するはずだ。

ちなみに、私が突然ジャンパーになったら、留守中の綺麗目女優の家に瞬間移動して、たぶんパンツとか盗んじゃうんだろうな、と思う。

我ながら己のせこさに泣けてくるが、それが我々小市民の「リアル」と言うものであり、そういった意味で、主人公以外にも複数登場するジャンパーの誰も、正義の味方にも大悪党にもならないこの映画こそ、きわめてリアルに徹した作品であると言える。

もし続編が製作されるのなら、本作と同様、人間のせこさをとことんまで描ききった、よりリアルな内容の作品を望みたいものだ。ドミノ大会の会場に瞬間移動し周りに気づかれぬようにドミノを倒しまくって嫌がらせするとか、嫌いな奴の背後に瞬間移動して延々と浣腸を食らわせるとか、まだまだいろいろあると思う。