私の記憶に残るライブ(バンド名は覚えていない)

子供のころ、『ダッシュ!四駆郎』という漫画が好きで夢中になって読んでいた。

 

 

当時の子供たちの間で巻き起こった「ミニ四駆ブーム」の火付け役となった漫画で、私と同世代なら記憶に残っている人も多いだろう。

その登場人物の中のひとりに「パンクロー」がいた。

 

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(↑右が変身前の少年、左が「変身後」のパンクロー)

 

パンクローは普段はおとなしくて軟弱な少年であるが、顔面に米ロック・バンド「KISS」ふうの白塗りメイクをした途端、

「ヒィィィィヤッホォォォォォォウ!!」

「やっちまうぜベイベー!!」

みたいなことを口走る超強気なキャラに変身。

メイクをする前のでくのぼうぶりが嘘のようにミニ四駆を自由自在に操るパンクローは、『ダッシュ!四駆郎』の登場人物の中でもきわめて個性的なキャラクターであった。

いま考えればサイコとしかいえないとんでもないキャラクターであったが、もの凄くバカな少年であった私は「なんてかっこいい奴なんだ!」と、パンクローの活躍に純粋に心躍らせていたものだった。

ロックを好きになってから、いままでどれくらいライブを観に行っただろうか。基本的に出不精なので、驚くほど多く観に行っているわけではないだろうが、それでもけっこうな回数だろう。

はじめてのライブ体験となったオアシスの武道館公演。

急遽解散が決まり、結果的に関東最後となったナンバーガール02年11月@ZEPP東京

10年近く追っかけてきてついに念願叶い初観覧となったブラー03年@赤坂ブリッツ

まさかの「クリープ」演奏に狂喜乱舞したサマーソニック03でのレディオヘッド

いま思い返しても胸が熱くなるライブばかりだ。

しかし、それらとはべつに、具体的にどんな演奏だったのかはおろかバンド名すらも覚えていない連中のライブで、ひとつだけ強烈に記憶に残っているものがある。

かつて友人がメロコアにはまった。当時のヒットチャートは、メロコアのバンドが雨後の筍のように登場していた頃であったが、友人はうまいことブームに乗っかったそういう売れっ子のバンドではなく、どちらかというと脚光を浴びていないような、つまり未来の売れっ子を目指しインディーズで活動しているバンドのほうに彼は熱心だった。

私はメロコアという音楽に惹かれるものはなかったが、その友人の付き合いで、インディーズのメロコア・バンドが数組出演するという公演を観に行くことになった。

ライブにはたしか4つのバンドが出演して、「そのバンド」は2番目に登場してきたと思う。

とにかく強烈だった。

「演奏が凄かった」というわけではない。

その証拠に、バンドの演奏を耳にしたことはかろうじて記憶に残っているものの、細かい部分はほとんど覚えていない。そもそも先ほども書いたように、バンド名すら記憶にないのだ。ではなにが強烈だったのかというと、それは「ヴォーカリストの出で立ち」であった。

そのヴォーカリストの顔面が、「黒一色」で染められていたのだ。

目の周りに黄色い星型のふちどりがされているとか、口元に真っ赤な口紅がひいてあるとか、そういうのは一切なく、墨かなんかを塗ったのかわからないが、とにかく顔面がただただ「真っ黒」なのである。

なんともシンプルというか雑というか、ある意味、KISSや聖飢魔IIなんかよりよっぽど「奇抜なメイク」と言えよう。

しかもこのヴォーカリスト氏の服装がまた、顔面黒塗り状態であるにもかかわらず、Tシャツにチノパン、白のスニーカーという、なんだか近所のコンビニにタバコを買いに行くような格好なんであって、そのうえヘアースタイルも地味なセンター分けの至って「普通のにーちゃん」といった風情であり、おまけに小太りでもあった。

顔面が真っ黒なのに、普通の格好をした小太りのにーちゃん。

普通の格好をした小太りのにーちゃんなのに、顔面が真っ黒。

なんだかわからないが、ともかくそれはひどく異様な光景のように私には映った。

前述したように細かい部分は忘れてしまったが、全体的にはいかにもメロコアのバンドらしい激しめの演奏であったのは間違いない。そして、その激しい演奏をバックに、舞台上を蟻のように所狭しと動き回りながらシャウトを繰り返す、顔面黒塗りでありながら至って普通のにーちゃんといった風情のヴォーカリスト氏が滑稽に見えてしかたがなかった私であったが、しかし彼らのひじょうに熱のこもったパフォーマンスを見るにつけ、やがてちょっとした感動めいた思いが生まれていた。

顔面黒塗り状態でかっこつけているとはいえ、このヴォーカリストは普段はどちらかというと冴えない人物だろう。アルバイトで生計を立てながら、空いた日にはバンドの練習をしたり曲作りに励む毎日……。おそらく売れないミュージシャンの日常は、我々が思っている以上に地味であり、いつ報われるかわからない生活は安月給のサラリーマンよりはるかに過酷ですらあるはずだ。

しかしどうだろう。

この日の彼は、紛れもなく「ロックンローラー」である。

冴えない青年が、顔面を黒塗りにした瞬間、きらびやかなロックンローラーに変身する…。それはあたかも『ダッシュ!四駆郎』における「パンクロー」のようであり、滑稽でもあったが同時になんだかかっこよくも思えたのだ。

5曲ほど歌い終えたところでMCタイムへ突入。

顔面黒塗りヴォーカリスト氏が語りだした。

「……今日は観に来てくれてありがとうございます。僕らのCDが後ろの物販で売ってますんで、今日観て気に入ったという人がいたら、ぜひ買っていってください」

たしかそんなようなことを言ったと思う。

と、ここで舞台脇に置いてあったタオルをおもむろに取りに行く顔面黒塗りヴォーカリスト氏。

そりゃそうだろう。

なにしろ、ただでさえ激しい演奏を行っているのだし、そのうえこの顔面黒塗りヴォーカリスト氏は小太りな人だ。太った人が尋常じゃない量の汗を掻くことくらい、私だって知ってる。

そうかそうか。わかったよ。さあ、汗を拭けよ。思う存分、拭けばいいさ。

そんな私の心の声を知ってか知らずか、顔面に滴る汗をタオルでゴシゴシと気持ちよさそうに拭う顔面黒塗りヴォーカリスト氏。

そして、汗を拭き終わった顔面黒塗りヴォーカリスト氏は、いくぶん晴れやかな表情を浮かべながら言った。

「じゃあ最後の曲、聴いてください!」

それどころではなかった。

顔面真っ黒状態であったのが、汗で濡れたタオルで拭ったため、半分くらい剥げ落ちた「まだら状」というか、ドリフのコントでお馴染みの「爆発後」みたいな感じというか、もうめちゃくちゃになっていたのだ。

「メイクしたの、意味ねええええええええええええええええええええええ!!!」

バンド名は覚えていない。