映画『影なき淫獣』‐バラエティ豊かな「股間の隠し方」はまさに匠の技と言っていい‐

『影なき陰獣』という映画がこないだCSで放送していたので、なんの予備知識もなく観た。

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まあ、裸の女がわんさか出てくる映画である。

あと、人がわんさか殺される。裸の女がエロいことをしているか、そうでなければ人が殺されているかで内容の大半が占められていると言っても過言ではない。もちろんスカっとするアクションシーンや、感動で思わず涙が流れてくるシーンなんて、いつまで待ってもやってこない。

まあ、『影なき淫獣』なんていうタイトルの映画なんだから、当たり前といえば当たり前である。むしろ、こんなタイトルなのにエロい場面が一切存在せず、ゴリラによく似た元傭兵と、そのゴリラによく似た元傭兵の娘をさらった悪党一味が延々としばき合いをする内容だったら詐欺である。というか、それは『コマンドー』である。

イタリアのとある街で女学生を狙った連続殺人事件が発生。犯人も動機も不明。周りの関係者が次々と殺されてゆき、キャンパス内の人間が疑心暗鬼する中、やがてバカンスへ行った女学生たちにも魔の手が伸びる…というストーリーである。ジャンルでいえばサスペンス・ホラーといったところか。

とはいえ、サスペンスやホラーの要素以上に心血を注いでいるように感じられるのが女の股間の隠し方だ。

昔観たなにかのお笑いの番組で全裸の男が登場して、花瓶とか醤油挿しといった生活品がカメラが切り替わるたびに「ちょうど」死角となって、結局最後まで男の股間が映らないというコントがあった。本作でその役割を果たしているのは人形でありブロンズ像の置物であり窓の格子である。もちろんコントではないのでスタッフの笑い声は一切聞こえてこないし、演じている女優やスタッフたちもあくまでも真剣といったご様子だ。

「この場面はこんな感じで隠してみたらいいんじゃないか?」

もしかしたら映画製作の現場には股間隠し専門のプロみたいな人間がいて、あるいはそんなふうに指示を送っていたのかもしれない。いずれにせよ、その匠の技に誰もが感嘆せざるをえないだろう。

それにしても、裸の女がやたらと出てくるので肝心の物語の内容がほとんどと言っていいほど頭に入ってこない。少なくとも映画の世界の中では人がわんさか殺されようが、大量のエロの前ではとことん無力である、ということがよくわかった。