読書『ロック豪快伝説』(大森康雄)

ロックに欠かせないものといえば伝説である。

ちなみにロックにとって伝説とは=「むちゃくちゃな行為」と言って良い。

重度のヘロイン中毒の治療のせいで全身の血液をすべて入れ替えたと噂されているローリング・ストーンズのキース・リチャーズ、愛車のリンカーンをプールに沈めたザ・フーのキース・ムーンなど、挙げだしていったらそれこそきりがないほどだ。

伝説的なセリフも数多い。

「ビートルズはキリストよりも有名だ」

そう発言し、世界中のキリスト教信者から大ブーイングを浴びたジョン・レノン。

「ドラッグなんて紅茶を飲むようなものさ」

「ブラーのデーモンとアレックスはエイズにでもかかって死ねばいい」

と発言したのは、そのジョン・レノンを敬愛するオアシスのノエル・ギャラガーだが、当然これらの発言は彼らの出身地である英国を中心に大変な社会的問題にもなった(両者とも後に謝罪)。

日本のロックリスナーの間でとりわけ有名なのが、レッド・ツェッペリンの伝説のエピソード、いわゆる「サメ事件」であろう。

バンドのドラマー、ジョン・ボーナムが、ツアー中に滞在していたホテルでグルーピーのねーちゃんの「大事な部分」、といっても女性にとって「大事な部分」は色々あるだろうからズバリ言うと、「ま○こ」であり、「☆んこ」であり、「まん\(^▽^)/」 のことだが、なんとそこにサメを突っ込んだというのだからただただ驚くしかない。

ロック豪快伝説 (立東舎文庫)

ロック豪快伝説 (立東舎文庫)

 

 

本書『ロック豪快伝説』は、音楽ジャーナリストとして活躍する著者が、あまたロックミュージシャンの奇行・珍行・蛮行エピソードをあますところなくまとめ上げたものだ。取り上げられているのはクイーンのフレディ・マーキュリー、ジミ・ヘンドリックス、イギー・ポップ、エリック・クラプトン、ポール・マッカートニーなどで、どの話もいちいちスケールがでかくて面白い。

個人的にとくに強烈に心に残ったのは、ディープ・パープルのヴォーカリスト、イアン・ギアンの、とある日のライブ中に成し遂げられた「伝説的行為」についてのエピソードである。

そのときの本人の証言が記載されている。以下がそれだ。

あの日のライヴでは、一人の女の子が――悲しいことに俺たちはちゃんと紹介し合わなかったので、名前はわからない――ステージに上がってきた。リッチーの(ギター)ソロの時、俺と彼女は床に寝そべって、このピアノの下に転がっていって愛し合ってしまった。20分のすごいソロがようやく終わりに近づいて、ズボンをはき直そうとするのは大変だった。だが、ソロが長くて救われたのである 

なにが「救われたのである」のかさっぱりわからないが、ともあれ本当に幸せそうでなによりだ。

ロッカーではないが、子供のころ耳にした高橋名人の伝説的エピソードも個人的には忘れがたい。

かつて「16連射」なる超人技で瞬く間に子供たちのヒーローとなった高橋名人だが、ある時期からその姿をぱったりと見なくなった。

まあ、今考えれば単に「ブームが去った」ということだったのだろうが、まだ子供であった私はそんな社会の仕組みなど当然理解しておらず、ただただ純粋に、突如として名人が「消えた」ことを不思議に思っていた。それで噂として流れてきたのが「高橋名人、逮捕」という大ニュースであった。

いつものように名人がゲームの大会に出場しているときに「事件」は起こったという。

お得意の16連射の最中に、コントローラーの中に仕込んであった連射用の隠しバネが勢いあまったはずみで飛び出してしまい、なんとそのまま警察に詐欺容疑の現行犯で逮捕連行されたというのだ。

あれにはマジで仰天したものだ。
まあ、ほんとうのところは知らない。というか、割とそこいらへんはどうでもよい。べつに嘘でも面白けりゃいいからだ。それが伝説というものである。